黄昏前の眠り姫
「……志歩ちゃん?」
自主練のために集合時間より早くセカイに来たら、教室の隅で志歩ちゃんが眠っていた。
体育座りで壁にもたれかかって、静かに寝息を立てている。ベースが横に置かれてるし、もしかしたらもっと早くから練習をしていたのかも。
「あら、穂波。来てたのね」
「あっ、ルカさん」
音を立てないようにドアを開けて、ルカさんが教室に入ってくる。両手にはブランケットが抱えられていた。志歩ちゃんが風邪をひかないように持ってきてくれたみたい。
「ありがとうございます、ルカさん」
「いいのよ。志歩、昨日も今日もすごく頑張ってたみたいだったから」
「やっぱり、そうなんですね」
「ええ。この前、咲希が新しい曲の案を持ってきてたでしょう? それがすごく良かったから、フレーズの修正案とか、夜なべして考えてたみたいで」
「志歩ちゃん……」
「今日も早くから来て練習してたみたいだけど、なんだか調子が出てないみたいだったから。少し休んだらって私から提案したの。……でも、穂波が来たのなら、そろそろ起こしてあげた方がいいかしら?」
「……このまま寝かせてあげようと思います。集合時間まで、まだいっぱい時間もありますから」
「そう。確かに、それがいいかもしれないわね」
志歩ちゃんにブランケットをかけてあげながら、ルカさんが微笑む。変わらず小さな寝息を立てる志歩ちゃんの表情も、心なしか綻んだ気がした。
「どんな夢を見てるのかしらね」
「ふふっ、きっと楽しい夢だと思います」
「この顔は、きっとそうね。……さて、と。私は機材のメンテナンスがあるから席を外すわね。隣の教室にいるから、何かあったら声をかけてちょうだい」
「分かりました。ありがとうございます、ルカさん」
……そうして、2人きりになった教室。
志歩ちゃんが寝ている横でドラムを叩くわけにもいかないし、手持ち無沙汰になっちゃったわたしは、とりあえず志歩ちゃんの隣に座ることにした。
「……一歌……その焼きそばパンは食品サンプルだから……食べちゃ駄目……」
……本当に、どんな夢を見てるんだろう?あとでこっそり教えてほしいな。
それにしても、志歩ちゃんがこうやってうたた寝しちゃうのは本当に珍しい。でも、咲希ちゃんの曲は本当に素敵な曲だったし……きっともっと良くするために、昨日だけじゃなくて毎日いろいろ考えてくれてたんだと思う。
……曲のことだけじゃない。志歩ちゃんは、練習中も練習の外でも、いつでもわたしたちのことを考えてくれる。志歩ちゃんは「当たり前のこと」とか、「大したことじゃない」とかって言うけど……。わたしは、志歩ちゃんがいてくれるからこそ、わたしたちは今ここにいるんだって思う。
だから……こういう時くらいは、志歩ちゃんをゆっくり休ませてあげたい。志歩ちゃんが安心して隣で休めるような、そんなわたしでありたい。
「いつもありがとう、志歩ちゃん」
きっと聞こえてないだろうけど。
それでもちょっとだけ、志歩ちゃんの頬が赤くなった気がした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「あれ、もうこんな時間」
今日演奏する曲のイメージトレーニングをしていたら、集合時間の10分前になっていた。
……本当はギリギリまで寝かせてあげたいけど……咲希ちゃんたちに見られちゃったら、きっと志歩ちゃんもちょっと恥ずかしいよね。
「志歩ちゃん、起きて」
「……ん、うぅ……」
一瞬小さく唸って、志歩ちゃんの瞼が開く。
「……穂波。……私、寝てた?」
「うん。本当はもうちょっと寝かせててあげたかったんだけど……もうすぐ練習の時間だから」
「そっか。大丈夫だよ、ありがとう。このブランケットは?」
「それはルカさんが持ってきてくれたの。風邪ひいちゃわないようにって」
「そうなんだ……後で、お礼言っとかないと」
「ルカさん、隣の教室で作業してるって言ってたよ」
「そうなの? じゃあせっかくだし、今行こうかな」
丁寧にブランケットを畳んで、立ち上がる。
……眠気も体調も、もう大丈夫みたい。
「あ、そうだ。志歩ちゃん」
「何?」
「さっき、どんな夢見てたの?」
「……秘密」
「そっか、残念」
結局あの寝言がなんなのかは分からないまま、ほんのちょっとの非日常が、日常に移り変わっていく。
……今度は隣で一緒に寝てみたら、どんな夢なのか分かるかな。……なんて、恥ずかしいからきっとできないだろうな。
そんな他愛のないことを考えながら。わたしたちは一度、空っぽの教室を後にした。
2021/10/03 投稿作品
しほなみです。個人的にはかなり珍しいCPかと思います。
おそらくこれ以外にはないのではないかと。(忘れてるだけかもしれませんが)
しほなみ……というかレオニのCPを書いている人は周りにもたくさんいるのですが、
その割に私個人としてはあまり書く気になれないというのが正直なところです。
勿論モモジャン最推しというのは前提にあるのですが、
そもそもレオニのストーリーを追い切れてなかったり、
どうしても相手固定を強く要求してくる方が界隈に多かったり……。
長くなってしまうので細かいお話は省くのですが、相手固定はどうにも私のスタンスと相性が悪いことが多いのです。
ただこのサイトもできましたし、界隈との関係の話はあまり気にしなくてもいいかもしれませんね。
ストーリーさえ追いきれれば、また挑戦してみようと思います。