日常

「はー、今日も疲れた〜!」

 スタジオの前で、咲希が大きく伸びをする。
 大学生になっても変わらないものは多い。それは練習後のこの悪くない疲れだったり、一歌や咲希、穂波と一緒にいる時のこの安心感だったり、「プロになる」っていう、この色褪せない想いだったり。

「ねえねえ、このあと皆でご飯食べにいかない?」
「いいね。私も夕飯どうするか悩んでたし、一緒にいこっか」
「わたしも大丈夫だよ。お母さんにも連絡しとくね」

 勿論、変わっていくことも多い。大学生になって課題が重くなった分、こうして集まって練習できる自由時間も増えた。ライブをする箱も最初の頃とは一回りも二回りも大きくなって、プロへの登竜門とされるイベントに声をかけられることだって少しずつ出てきた。

「志歩ちゃんはどう?」
「ごめん、私はパス。早く家帰らないといけないから」
「えーっ! どうして……あっ、もしかして……?」

 でも、一番はっきりと変わったことを挙げるなら、きっと答えは一つだと思う。
 一年前は想像もしてなかった生活。それが今では私の日常になりつつあることも、なんだか新鮮で悪い気はしない。

「今日、私夕食当番だから」
「やっぱり! いいなぁ、アタシもしほちゃんの手料理食べたい!」
「はいはい、機会があったらね。……じゃあ、そろそろ買い出し行かないと」
「うん。気をつけてね、志歩ちゃん」
「みのりとこはねにもよろしくね」

 ……だから今日は、そんな私の変化の話をしようと思う。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「あ。おかえり、志歩ちゃん」
「ただいま。みのりは少し遅くなるんだったっけ」
「うん。夕飯までには帰れるって言ってたよ」

 夕飯の材料を一旦こはねに渡して、部屋に荷物を置きにいく。実家よりも二回りくらい狭い自分の部屋。最初は少し違和感があったけど、慣れればこれはこれで過ごしやすい。

「ちょっと遅くなってごめんね」
「ううん、大丈夫だよ。今日は何を作るの?」
「生姜焼き。穂波がレシピ教えてくれたから試してみようかなって」
「望月さんが?ふふっ、楽しみだなぁ」

 じゃあ私はお風呂洗ってくるね。そう言い残してこはねはお風呂場の方へ姿を消した。
 ……ローテーションで料理とお風呂掃除を担当するこの生活にも、半年もすればかなり慣れてきた。最初はハンバーグとカレーくらいしかなかった料理のレパートリーも、穂波たちのサポートもあって今ではだいぶ増えてきた。

 ……本当に、半年前は想像もつかなかったな。
 なんだかんだ3年間同じクラスだった私たちは、卒業と同時に一人暮らしをしようとして猛反対を受けた。私はお姉ちゃんから。こはねは両親から。みのりは……友達全員から猛反対されたらしい。
 偶然利害が一致した私たちに現れた選択肢が「シェアハウス」だった。友達と一緒だからと家族や友人を説き伏せ、こうして今は3人で暮らしている。

 不思議な面子だな、とは私も思う。
 みのりとこはねのことは心から信頼してるけど、それはそれとしてこうやって一緒に暮らすとしたら幼馴染の皆だとぼんやり思っていた。

『んー、たしかに皆で一緒に暮らせたら楽しいのかな?』
『なんだか逆にピンと来ないよね。今の過ごし方が一番落ち着くっていうか……』
『それに、プロを目指すならいつか譲れないものとかがぶつかっちゃうことも出てくると思うし……そういう時、私たち以外に相談できる人がいるのは良いんじゃないかな』

 ……確かに。一歌の言う通り、冷静に皆と向き合える場所は必要なのかもしれない。そう思い始めてからはそういったことを考えることは減ったけど……それでも時折、不思議だな、と思い返しては笑ってしまう。

「お風呂終わったよ……志歩ちゃん?どうしたの?」
「ごめん。変な面子だなって改めて思っただけ」
「……そうだね。私、みのりちゃんは絶対遥ちゃんと一緒に暮らすんだって思ってたな」
「そう? みのりのことだから、桐谷さんと同棲なんてしたら3日で心臓が止まっちゃうんじゃない?」
「ふふっ、そうかも。じゃあ、私たちはみのりちゃんの救世主だね」
「そうだね。もっと感謝してもらわないと」

 そんな話をしていたら、玄関の方でドアの音。
 どうやら噂のアイドルが帰ってきたらしい。

「遅くなってごめんね! おやつにシュークリーム買ってきたから、ご飯の後に皆で食べよう?」
「……だって。どう思う? 志歩ちゃん」
「いい心がけじゃない? ちゃんと救世主にお土産も用意してるし」
「え? え?」

 混乱するみのりに被せるように、ご飯の炊ける音。

「あっ、ご飯炊けたみたい。私今のうちによそっとくね」
「ありがと。こっちも丁度できたとこ」
「あっ、わたしも! わたしも手伝うよ!」

 リビングに3人と、3人分の夕食が揃っていく。
 ごはんと味噌汁、生姜焼き。あとは麦茶と、みのりが買ってきたシュークリーム。

「わぁ……おいしそう!」
「穂波がレシピ教えてくれたんだ。うまくできてよかった」
「志歩ちゃん、どんどん料理上手くなっていくね。私もレパートリー増やさなきゃ」
「まだみのりには敵わないけどね。……よし、じゃあ皆揃ったし食べようか」
「はーい! せーのっ、」

「「「いただきます」」」

- Afterword -
2021/10/22 投稿作品

みのこはしほシェアハウス概念です。
本当に大好きなんですよね、この概念。友達という距離感なのが最高に素敵です。
意外とこの温度感でのシェアハウス概念って他のコンテンツだと難しくて、
ユニット以外にも様々な繋がりがあるプロセカだからこそ生み出された概念だと思います。
コンテンツとしての土台の強さを感じますね。

ちなみにこれを書いた当時はレオニにはまだプロの話など全く出ていなかったので、
志歩ちゃん周りの描写はそれを前提としたものとなっています。
……今見返すとなかなか違和感がすごいですね。でも変えるのも野暮なのでそのままにしています。
いやだってさ、流石に思わんやん。こんなに早くプロになるなんて。