たまにはそんな祝福を

「ただいまー!」

 玄関からみのりちゃんの声が聞こえてきて、私と志歩ちゃんは顔を見合わせる。今日の主役が帰ってきたみたい。

「おかえり、みのりちゃん」
「いつもより遅かったけど、何かあった?」
「ちょっと練習が長引いちゃって! 何か手伝うことはある?」
「あっ、駄目だよみのりちゃん。今日はみのりちゃんが主役なんだから、主役らしく待ってないと」

 手伝おうとするみのりちゃんをこたつに押し込めて、志歩ちゃんと夕飯の準備。カセットコンロの上に土鍋、野菜と鶏もも、つくねと、あとはお酒もいくつか用意すれば……準備はばっちり。

「みのりは何飲むの?」
「えっと、ほろよいで!」
「私はハイボールにしようかな。志歩ちゃんは?」
「私は烏龍茶。明日車出ししないといけないから」

 コンロに火をつけて、それぞれの飲み物をグラスに入れる。ちょっとぎゅうぎゅうになっちゃったこたつも、もうすっかり慣れちゃった。
 皆がグラスを持ったことを確認して、小さく一つ咳払い。

「それじゃあ、みのりちゃん——MORE MORE JUMP!のドーム公演を記念して……」

「乾杯ー!」
「「かんぱーい!!」」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「おいしい! これ、豆乳鍋?」
「うん。これなら野菜中心でも良さそうだし、みのりちゃんもあまり気にせず食べられるかなって」
「そうなんだ、ありがとう! ……あっ、でも志歩ちゃんは豆乳大丈夫なの?」
「豆腐が苦手なだけだし、豆乳鍋くらいなら平気」

 適度に具材を足しながら、3人でお鍋をつついていく。
 みのりちゃんが食事制限とかを気にしなくていいように野菜多めの豆乳鍋にしてみたけど、正解だったみたい。豆乳が大丈夫かは志歩ちゃんに事前に確認済みだし、お豆腐の代わりにお餅を入れたから見栄えもばっちり。自分でも、うまく皆が幸せになれるお鍋を作れたと思う。
 ……まあ、カロリーについてはシメで全部崩れちゃうことになるんだけど……そこはまあ、ご愛嬌というか……。

「でも、やっぱりドーム公演ってすごいね。みのりちゃんがドームのステージに立ってる姿、想像したらちょっとドキドキしちゃうかも」
「本当にね。私たちも負けてられないな」
「えへへ〜……」

 頬を赤くしながら照れるみのりちゃん。こういうふとした仕草は今も昔も変わらないのに、テレビやライブで見るみのりちゃんは、昔と比べ物にならないくらい堂々としてかっこいい。
 なんだか不思議な感覚だな……。

「そういう志歩ちゃんたちだって、年が明けたらワンマンライブがあるんでしょ? わたしも観にいきたい!」
「いや、まだまだこんなとこで止まってられない。それこそドームライブなんてまだ夢のまた夢だし、もっともっと実力をつけないと」
「うんうん、そうだよね! わたしも海外公演目指してもっともっとがんばらないと!!」
「……まあ、目標を高く持つことはいいことじゃない?」

 志歩ちゃんたちも念願のプロデビューを果たしたみたいで、最近は特に忙しそうな日々を送っている。
 でも、志歩ちゃんはまだまだ満足してないらしい。もっと実力をつけないと……口癖みたいにそう言ってるけど、遠くを見つめる志歩ちゃんはいつも、とても楽しそうで幸せそうな顔をしている。

「私も頑張らないとなぁ」
「こはねちゃんたちだって頑張ってるよ! この前聴きに行ったときも、もっともっと上手くなってたもん!」
「そ、そうかな?」
「私が聴いても上手くなってたよ。こはねたちは私たちと違って目標までの距離が見えにくいだけだし、気にしなくていいんじゃない?」

 ……そっか。みのりちゃんと志歩ちゃんがそういうなら、そうなのかも。

「あーあー! こはねちゃんも志歩ちゃんもすごいなぁー! わたしももっと上手く歌いたいし、ギターとかベースとか弾けるようになりたいなー!」
「みのり、声大きい」
「おおきくないもん!!」

 ……あれ、みのりちゃんの頬が赤いのって……もしかして照れてるからじゃなくて、酔ってるから……?

「いただきまーす!」
「あっ、みのりちゃん!! それは烏龍茶じゃなくてウイスキーだよ!?」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「らからぁ……わにゃしだってはにゅかりゃんともっといっしょにいらいのにぃ……!! はにゅにゃちゃんはうちあわへばっかりでぇ……!」
「……」
「……」
「しほしゃんきいれる!?」
「あ、うんごめん、ちゃんと聞いてるから……」

 ……完全に出来あがっちゃってるな、みのりちゃん……。
 普段は度数の低いお酒ばかり飲むし、ちゃんと途中でお茶とかを挟むからこんなにぐずぐずにはならないんだけど……最近は公演に向けていろいろ大変だったみたいだし、張り詰めていた糸が切れちゃったのかもしれない。

「なんれぇ……はにゅかひゃんはわらひのことひらいににゃっちゃっひゃのはな……?」
「そ、そんなことないんじゃない?」
「ひほひゃんはにゃにもひらないれしょー!?」
「あ、うん、そうだね……」

 ちらちらとこちらに視線を向ける志歩ちゃんが、明らかに「助けてくれ」って目で訴えかけている。
 一番簡単なのは遥ちゃんに電話をかけることなんだけど、あんまり迷惑をかけちゃうと次の日みのりちゃんが罪悪感で死んじゃうし……ここは早めにお開きにして、みのりちゃんを休ませてあげるのが一番かな。

「じゃあ、そろそろシメを作ろうか」
「うん、お願いこはね」
「ひほひゃん!!」
「ごめん、聞いてるから。ちゃんと聞いてるからみのり」

 ……ごめんね志歩ちゃん、もう少し耐えて!
 小走りでキッチンに向かって、必要な食材を揃えていく。
 ベーコン、卵に冷凍庫のシュレッドチーズ。味を整えるための白だしと、仕上げ用のブラックペッパーとパルメザンチーズ。そして忘れちゃいけないのが、パスタ!
 豆乳鍋で作る和風カルボナーラ。チーズをふんだんに使うからちょっとカロリーは心配だけど……まあ、そこは、1日くらいは許してもらえるよね……?
 お腹にたまるものを食べれば、みのりちゃんも少しは落ち着くんじゃないかな。そんな目論見を食材と一緒に抱えてリビングに戻ってきた私が見た光景は——

「すぅ……すぅ……」

 ——既に力尽きて寝息を立ててるみのりちゃんの姿だった。

「……志歩ちゃん」
「うん……急に机に突っ伏したと思ったら、これ」
「あはは……じゃあ、カルボナーラは明日にしよっか」

 気分は完全にカルボナーラのそれだったからちょっとだけ残念だけど……まあ、夜遅くに炭水化物を取らずに済んだって思えば、悪くはないのかも……。

「それより、みのりちゃんどうしよっか?」
「部屋まで運ぶのは大変だし、いっそ布団持ってきて皆で下で寝た方がいいんじゃない?」
「え? 私はいいけど、志歩ちゃんは大丈夫? 明日車運転するんだし、ちゃんとベッドで寝た方がいいんじゃ……」
「明日はほとんど会場の下見だけだし大丈夫。それよりみのりを一人で放置しとく方が心配でしょ」
「それはそうかも……。うん、じゃあお布団持ってこよっか」

 私持って来るよ。こはねはリビング片付けといて。
 そう言って志歩ちゃんは上に上がっていった。残された私は食器とお鍋を下げて、布団が敷けるようにこたつを端っこへ追いやる。

「みのりちゃん、起きて。せめて着替えないと、洋服がしわくちゃになっちゃうよ」
「んぅ……んん……ねぇ、こはねちゃん……」
「どうしたの?」
「こはねちゃん、しほちゃん、ありがとう……また……やろうね……」

 ……うん、そうだね。
 今度はいつになるか分からないけど……また、やろう?

「お待たせ。……みのりはやっぱり起きない?」
「うん。さっき寝言を言ってたよ。またやろうね、って」
「なにそれ。みのりらしいというか、何というか」

 でも、やりたいね。なんて言葉はわざわざ交わさなかった。
 次は誰の番になるか分からないけど、もう暫くは、こうやって3人でお祝いしたいな。

 リビングに川の字に布団を敷いて、3人で眠る。
 フローリングの床はちょっと硬くて寝心地はベッドより悪かったけど……不思議と、いつもよりよく眠れるような気がした。

- Afterword -
2021/12/25 「prsk妄想限界戦線02」参加作品

妄想限界戦線参加作品です。
こちらは、24時間という限られた時間の中でお題に沿った作品を制作する企画となっております。
クリスマスに何やってるんですか??

クラス替えによってちょっと繋がりが薄くなってしまいましたが、
宮益坂1-Aは本当に大好きな組み合わせです。本当にバランスがいい、この3人。
そう思ってたのは私だけではなかったようで、一時期は「みのこはしほシェアハウス概念」なるものが
TLで大流行りしたくらいです。

ユニットやCPでの同棲・シェアハウスも勿論夢が広がっていいものですが、
こういう気の置けない友達同士での生活っていうのも、また違う魅力があって素敵ですよね。