ストロベリー・スパーク

「そ、その……プレゼントは……私なんだけど……」
 頭にリボンをつけて、顔を赤らめる遥ちゃんを見て……わたしは一瞬、何も考えられなくなった。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 4月14日。わたしが生まれた日。
 朝からたくさんの人にお祝いしてもらえた1日だった。こはねちゃんと志歩ちゃんがくれたフェニーくんのぬいぐるみ。咲希ちゃんと一歌ちゃんが購買で買ってくれたチョコレートとドーナツ。愛莉ちゃんがくれた眼鏡と、雫ちゃんがくれたかわいい帽子。
 ……そして、配信で贈られてきた、たくさんのお祝いのコメント。

 生まれて初めてってくらい、幸せな誕生日!
 そんな幸せと、両手からあふれそうな程のプレゼントを抱えて帰ろうとするわたしを、遥ちゃんが呼び止めた。

「渡したいものがあるんだけど……ちょっと、後ろを向いててくれる?」

 その30秒後。
 わたしの前に現れたのは、プレゼントになった遥ちゃんでした。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 え……えっ!?
 「プレゼントは私」ってことは、プレゼントは遥ちゃんってことで、つまりプレゼントは遥ちゃんってこと!?
 混乱しすぎて自分でも何を言ってるか分かりません!! 今何が起こってるんですか!?

「えっと、みのりが一番喜んでくれるプレゼントをずっと考えてたんだけど、全然いい案が浮かばなくて……」

 それにしてもリボン遥ちゃんが、かわいい。
 白くておっきいリボンはリンちゃんのことを思い出すけど、遥ちゃんがつけると大人っぽさと子供っぽさがすごく絶妙にバランスをとってて、なんというか、こう、危ないかわいさが……。

「本当にいろいろ考えたんだけど全然決まらなくて、そうしてるうちに準備する時間もなくなっちゃって……その……もう、私がプレゼントになるしかなかったというか……えっと……」

 って、冷静に分析してる場合じゃないよ!! 遥ちゃんが変なことしてるんだから止めてあげないと——!

「その、だから……私のこと、好きにしていいよ……みのり……」

 ……“好きにしていい”。
 それはわたしの思考をめちゃくちゃにするには十分すぎる言葉。
 好きにしていい? 好きにしていいってどういうこと? わたしが遥ちゃんに何をしても、遥ちゃんは笑って許してくれるってこと?


「……本当に、好きにしていいの?」
「……うん」

 ……そっか。

 なら、わたしは——


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「……みのり、本当にこんなのでよかったの?」
「うん! ……えへへ、遥ちゃんと何でもできるって思ったら、逆にこれくらいしか思いつかなくて……」

 わたしたちが来たのは、前に2人で来たシュークリーム屋さん。
 『好きにしていい』って言われると緊張して逆に何も出てこなくて……そんな時にふと思い出したのがここだった。
 遥ちゃんはいつも食事制限してるし、わたしも遥ちゃんに追いつけるように少しずつ食べるものを考えるようにしてて……だから、最近はこうやって遥ちゃんと甘いものを食べることも少なくなってきた。

「でも、遥ちゃん本当に大丈夫?」
「食事制限のこと? 大丈夫だよ、明日からまた調整していけばいいし。……それに、今日の私はみのりのものだからね」

 わたしのもの。
 なんだかちょっと、頬が緩んじゃう。遥ちゃんを独り占めしたいわけじゃなくて、むしろもっとたくさんの人に遥ちゃんのことを知ってほしい!って思うけど……それでも、「わたしだけの遥ちゃん」っていうのはとっても特別な感じがして、どうしようもなく嬉しくなってきちゃう。
 ……なんて考えてたら遥ちゃんが順番待ちの列に並びに行ってるのに気付かなかった。
 わ、わたしも一緒に行かないと!


「えっと、これを、」
「ぜんぶ、2個ずつください!」


 あ、ちなみに頭のリボンは外してもらいました。
 その……恥ずかしさでそわそわしている遥ちゃんを見ていると、なんだかわたしも落ち着かなくって……。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「最初は抹茶にしようかな」
「じゃあ、わたしはいちご!」

 シュークリームのたくさん入った箱を抱えて、近くの公園へ。
 空いていたベンチに2人で座って、思い思いの味を取り出す。

「「いただきます」」

 ちゃんと手を合わせてから、一口。
 思いっきりいきすぎてクリームが端からこぼれそうになる。必死に食べたり吸ったりしながら、なんとかこぼさずにほおばった。
 ……優しいクリームの向こうに、甘酸っぱいいちごの風味。期間限定だったから迷わず買ってみたけど、おいしい。これは、何個でも食べられるかも……!

「遥ちゃん、これすごくおいしい!」
「本当? それなら私も次食べてみようかな」

 久しぶりの甘いもの。久しぶりの、遥ちゃんとゆっくり過ごす夕暮れ時。
 それがとっても幸せで。……この時間がずっと、ずーっと続けばいいな、なんて思っちゃう。

 あ、でも、そういえばシュークリーム、あと10個も残ってるんだった!
 これならずーっととまではいかなくても、しばらくはこの幸せが続く、かも?

「遥ちゃんは抹茶食べたんだっけ? じゃあ、わたしも次はそれにしようかな」
「うん、すごく食べやすくておすすめだよ。それじゃあ私も……あっ」

 じぃっとわたしの顔を見つめる遥ちゃん。

「遥ちゃん? ……えっと、わたしの顔、何かついてる?」
「うん。ほっぺにクリームついてるよ、みのり」
「ええっ!? うぅ……ちゃんと上手に食べれたと思ってたんだけどなぁ……」

 高校生にもなってほっぺにクリームつけてるなんて、ちょっと恥ずかしいかも。

「は、遥ちゃん、クリームどの辺についてるかな?」



 瞬間。
 遥ちゃんの唇が、わたしの頬に触れた。

 一瞬、だったと思う。
 それでもわたしにはそれがいつまでも続いたような気がして。
 ふわりと揺れた青髪の、かすかなラベンダーの匂いが……ずっと、頭の中に残り続けていた。


「……本当だ。甘酸っぱくておいしいね」
 口元に手を当てて、いたずらっぽく遥ちゃんが笑う。

 ――ひょっとして、これもプレゼント?
 満たされるような気持ちと、欲しがりな思いで、もう頭がどうにかなりそうで。


 ……どうしよう。
 もうシュークリームじゃ、足りない、かも。

- Afterword -
2021/04/14 投稿作品

みのりちゃんの誕生日に合わせて書いた作品です。
プロセカが配信開始してから最初の誕生日ですね。
結構書きたい作品を書きたいように書いていた気がします。

ちなみに手元の原稿に残っていた仮タイトルは『花里みのりの幸福なる一日』でした。
この締めの雰囲気でそのタイトルはダサすぎるだろ。
投稿時に差し替えて正解だったと思います。