アイドル

 みのりが、溶けていく。
 大好きな人が、溶けていく。

「……ごめんね、遥ちゃん。わたしの体、やっぱり駄目みたい」
「みの……り……」

 私のせいだ。
 みのりが「アイス」だってことは分かってたのに。その体質も知ってたはずなのに。
 私が「ジュース」かもしれないって考えたことも一度や二度じゃないはずだ。みのりを守るためにはあえて距離を取るしかないって、そう何回も結論づけたはずだ。

 なのに。
 それなのに。
 まっすぐ愛したいと思ってしまった。
 その姿を、もっと間近で見たいと願ってしまった。

 私がみのりを殺した。
 私が欲張らなかったらみのりは死ななかったんだ。
 私がちゃんと距離をとれたら明日もみのりと会えたはずなんだ。
 私が、私が、


「『好きにならなければ』って、思ってる?」

 みのりが、優しく問いかける。私の知らない、やさしい声で。
 もう足はほとんど溶けてしまっていて、バランスを崩す彼女の体を、しゃがみこんで必死に受け止めた。

「だって、私が好きにならなければ……!」
「うん。わたしは、溶けなかったかも」
「だったら!!」
「わたしね、遥ちゃんが『私も大好きだよ』って言ってくれたとき、死んじゃいそうなくらい嬉しかったんだ」
「……」
「なんとなく溶けちゃう気もしてたけど、それでも、とっても嬉しかった。……それにね、今も怖くないの。きっと、遥ちゃんが『大好き』って言ってくれたから」
「そんな……」
「確かに遥ちゃんが『好き』ってわたしに言わなかったら、わたしは明日も生きてたかもしれないけど……それでも、遥ちゃんに溶かしてもらえて、わたしは幸せだって思うよ。……だから」


 手首まで溶けた右腕が、そっと私の涙を拭う。

「だから泣かないで、遥ちゃん。遥ちゃんはみんなに希望を届けるアイドルなんだから、笑顔が一番だよ」


「……そんな、そんなの……!」
「できるよ、遥ちゃんなら。だって遥ちゃんは、わたしの憧れのアイドルだもん」

 ついに腕まで溶けきったのに、みのりの笑顔は私にいっぱい元気をくれて。

「……そうだね……やってみる……」
「うん! ……ごめんね。わたし、そろそろもうダメかも……遥ちゃん。最後に、一つだけわがままを言っちゃってもいい?」
「もちろん。みのりのためなら、なんだってやるよ」
「えへへ、ありがとう。それじゃあ……」


「……最後に、ぎゅって、抱きしめて。遥ちゃん」


「……そんなことなら、いくらでも」
 そう言って、胸から上だけになってしまったみのりを、強く、痛いくらい強く抱きしめた。

「遥ちゃん、あったかい」
「……みのりだって、あったかいよ」
「……ありがとう。……ねぇ、遥ちゃん」
「なぁに?」


「大好きだよ。今も、これからも、ずっと」

 そんな告白と、口づけを最後に。
 みのりは、遂にただの水溜りになった。


「……笑わなきゃ」
 みのりがそう言ったから。私は希望を届けるアイドルだから。そんな私を誰よりも信じてくれたのは、みのりだったから。
 だから私は笑わなきゃいけない。笑って、お別れしないといけない。

「……ありがとうみのり。私も、ずっと大好きだよ」

 けれど水溜りに映った私は、ぐしゃぐしゃの、あまりにも必死で不恰好な笑顔で。

 それが悔しくて、情けなくて。

 行き場のない想いを叫びながら、弱い私は、独り、泣いた。

- Afterword -
2021/04/18 「みのはる100ラリー」19本目

「アイスバース」とは、「オメガバース」に代表されるバース系設定の1つです。
「アイス」という属性を持つ人間は、
「ジュース」という属性を持つ人間と結ばれると身体が溶けて死んでしまいます。
アイスは自分がアイスだと自覚できますが、ジュースはアイスを溶かすまで自覚できません。

これをバッドエンドとしていいかは少し悩みましたが、
遥ちゃんが泣いているのだから、確かにこれはバッドエンドでしょう。

基本的にバース系はお題で指定されでもしない限り書かないのですが、
アイスバースは少しだけ雰囲気が好きなので、もしかしたらもう一度くらいは書くかもしれません。
あとバース系で言うならポメガバースとか。あそこまで行っちゃうともう原型留めてないけど。