あなたの唄に、くちづけを

 遥ちゃんの歌が、聴こえる。

 少し早く着いた屋上から漏れてくる遥ちゃんの声はとっても素敵で……なんだか邪魔したくなかったわたしは、屋上には入らないで、踊り場の扉に背中を預けた。

 何の歌だろう?
 ASRUNの歌じゃないけど、どこかで聴いたことがある歌。ミクちゃんの歌かな? 一歌ちゃんに教えてもらったのかも。

「——♪」

 ……遥ちゃんの唄。
 夢見る、明日の空の唄。アイドルっぽい元気な歌じゃないけど、優しく背中を押してくれる歌。
 曲も、歌詞も、遥ちゃんにぴったりで——遥ちゃんがこの歌に惹かれたのも、なんだか分かる気がする。

「——♪————♪」

 そうだ。この歌、セカイでミクちゃんが歌ってた曲だ。
 ライブ終わりの静かなステージで、縁に座って歌ってた歌。

「——♫」
 えっと、確か、こんな歌詞。
 遥ちゃんの邪魔にならないように、小さな声で音を合わせてみる。
 ステージでのパフォーマンスとは違う、静かに声が溶け合っていく感覚。ちょっとくすぐったいけど……遥ちゃんを近くに感じられる気がして、ちょっとだけ暖かいかも。

「————♪」
「——♫————♫」

 音を重ねる。言葉を重ねる。
 想いは……ちょっと難しいけど。今はわたしが勝手に、こっそり音を合わせてるだけだし……。

「——♫」
「みのり、何してるの?」
「ひゃあああ!?」

 もたれかかってた扉を突然開けられて、そのままころんと屋上に転がり出される。
 空を見上げる形になったわたしの顔を、遥ちゃんが覗き込んでいた。

「は、はは、遥ちゃん!?」
「ドアの向こうからみのりの声が聞こえてきたから……どうしたの? そんなところで」
「えっと、その……遥ちゃんの歌の邪魔をしないようにって思って……でも知ってる歌だったからつい……邪魔しちゃってごめんね……」
「大丈夫、気にしてないよ……そうだ、みのり。今度は2人で一緒に歌ってみない?」
「えっ!? そ、それはさすがに……!!」
「ドア越しに聴こえるみのりの唄、すごく綺麗だった。だから、今度はちゃんと聴いてみたいんだけど……駄目、かな?」
「! ……ううん! わたしでよければ、ぜひ!!」
「もう、みのりったら。そんなにガチガチにならなくていいよ」

 それじゃあ、せーの。

「——♪」
「————♫」

 音を重ねる。言葉を重ねる。
 想いも——今度はきっと、重なってる。

 これは誰かのためじゃない、わたしたちのための唄。
 隣で微笑む遥ちゃんの横顔は、とても綺麗だった。

- Afterword -
2021/04/18 「みのはる100ラリー」21本目

お題は「歌に口づけ」でした。お題とは??
文句の一つもつけたいところですが、多分提案したのは私なので何も言えません。

難しいお題でしたが、このお題だからこそ生み出せた作品な気がします。
口ずさむ歌を重ねることを「口づけ」と表現したというか。
歌というものを通した間接キスというか。
そんな感じのことを意識して書きました。全くの0からはなかなか出せないイメージですね。
こういうのが作れるなら、たまには縛り強めの創作もありなのかもしれません。
積極的にはやりたくないですが……。