指先の海は君の青

【一】

 それに気づいたのは、偶然だった。

 遥ちゃんの指先で光る青。海みたいに綺麗なその色が、遥ちゃんにぴったりで。

「遥ちゃん、それ……」
「え? ……ああ、このネイル? この前、すごく惹かれるマニキュアを見つけたの」
「そうなんだ……すっごく綺麗でびっくりしちゃった」
「ありがとう。ちょっと恥ずかしいな。……普段は自分でネイルすること、あんまりないんだけどね」
「お母さんがやってくれるんだったっけ。いいなぁ」
「みのりは、ネイルとかしたりしないの?」
「わたしは、あんまりやらないかなぁ……」

 遥ちゃんとかの爪を見てやってみたくなることはあるけど、自分に合うネイルのイメージがあんまり湧かない。
 あんまり目立たない色でやってみることはあるけど……いかにも「ネイル」って感じのおしゃれなものには、ずっと挑戦する勇気が出ないでいる。

「でも、いつかやってみたいなぁ。遥ちゃんの爪、見ててすっごく綺麗だし!」
「もうみのり、さっきからそればっかり。……でもそうだね。みのりも、ネイルとかしてみたらもっと可愛くなると思う」
「そうかなぁ……って、かわっ……!? は、はは遥ちゃん、今なんて!?」

 ……そっかぁ。
 遥ちゃんがそう言ってくれるなら、素敵なマニキュア、ちょっと探してみようかな。


【二】

 ……マニキュア、種類が多すぎます……。

 あれからいろいろ調べてみたけど、あんまりピンとくるものが見つからない。やっぱり、わたしには遠い世界な気がするなぁ……。
 そしてずっと探してたせいで今日は寝不足……うぅ……。

「みのり、なんだか眠そうだね」
「うん……ちょっと調べものしてて……」
「そうなんだ……。そうだ。これ、みのりにあげるね」

 遥ちゃんの鞄から出てきたのは……綺麗な青の、マニキュアの瓶。

「……これって」
「うん、昨日私がつけてたのだよ。2つ買ってたから、1つみのりにあげる」
「い、いいの?」
「大丈夫。昨日みのりもやってみたいって言ってたし……せっかくならみのりにも、私のお気に入りをつけてほしいなって」
「遥ちゃん……えへへ、ありがとう!」
「どういたしまして。塗り方とかで分からないことがあったら教えてね」

 遥ちゃんとお揃いのネイル。

「えへへへへ……」

 嬉しくて、思わずニヤニヤしちゃう。
 帰ったら早速つけてみよっと!


【三】

 甘皮はお風呂でふやかして、ガーゼでそっと処理。
 爪切りじゃなくて、最後はちゃんとやすりで形を整えて、ささくれにならないようにネイルオイルで保湿をしっかり。
 遥ちゃんとお揃いのマニキュア。遥ちゃんの青が少しでも映えるように、ちゃんとやり方を調べて丁寧に準備していく。

 ちゃんと油分を拭き取ったら、まずはベースコート。
 真ん中からていねいに塗っていって、最後に爪の先にもちゃんと塗る。

 ……集中しすぎて目が痛くなってきちゃった。
 一度目を閉じて、ほっと一息。
 心の準備ができたら、目を開けて、いよいよ本番。

 爪の先から青を差す。
 ムラにならないように気をつけながら、手早く、でもはみ出ないように塗っていく。
 同じことをもう一回やって、乾いたらトップコートを塗って……。


「……できた」


 左手の人差し指に、海みたいに綺麗な青。
 まだ1箇所だけだけど……なんだかこの指先が、遥ちゃんに繋がってるみたいで。


「……えへへ」


 似合ってるかな。遥ちゃんは、似合ってるって言ってくれるかな。
 早く遥ちゃんに見せたいな。いつなら見せられるかな。
 その時のためにも、もっと練習しなくっちゃ。他の指にも塗ってみよっと!


 もう一度、ほっと息をついて。
 わたしはまた、その青色に手を伸ばした。

- Afterword -
2021/04/21 「みのはる100ラリー」27本目

「マニキュア」がお題の回でした。
こういうオシャレをしている子っていいですよね。

当然というかなんというか、私自身はネイルとは無縁の人生だったので、
この作品を書くのはまあまあ苦労しました。
まずマニキュアの塗り方から調べなきゃいけない。甘皮とか処理しなきゃいけないんだ。初めて知った。
人生で創作以外に役に立つとは思えませんが……
少なくとも、こういう細かなお洒落を頑張っている人たちのことは、
今まで以上に尊敬できるようになった気がします。