橙に染まる世界

「みのり、起きて。そろそろ準備するよ」
「うぅん……」
「おはよう、みのり。……どうする?眠いなら無理しなくてもいいけど……」
「ううん、大丈夫。……おはよう、遥ちゃん」

 朝5時、まだ外も暗い時間帯。
 聞こえるのは私たちの声と、遠くを走る始発電車の音だけ。

「分かった。それじゃあ私は先に外で待ってるから、着替えが済んだら出てきてね」
「はぁい……」

 いつもなら一人で行く朝のランニング。「わたしも一緒に行きたい」ってみのりが言い出した時は少し驚いた。無理はしてほしくないから気を遣ってたけど……心配いらないみたい。
 ランニングシューズを履いて玄関の扉を開けた途端、朝の冷たさが肌を刺す。明け方のこの目が覚めるような寒さを、私は結構気に入っている。

 ゆっくりストレッチをして体を温める。ちょうど完全に目が覚めてきた頃、ジャージ姿のみのりが家から出てきた。

「おまたせ、遥ちゃん!」
「目は覚めた?」
「うん! もう大丈夫!」
「よかった。じゃあ、軽くストレッチしたら早速行こうか」
「はーい!」

 段々と空の青が鮮やかになる、そんな朝方。
 みのりの準備ができたのを確かめて、私たちは走り始めた。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「みのり、きつくない?」
「うん、まだ大丈夫……!」
「そっか……じゃあ、もう少しペース上げてみようか。いける?」
「どうかな……でも、頑張ってみるね!」

 きつかったら遠慮せず言ってね、そう伝えてもう一段階ギアを上げる。
 ……少しみのりのことを甘く見ていたかもしれない。最初はみのりに合わせてゆっくりめに走るつもりだったんだけど、今ではもう普段とほとんど変わらないペースで走っている。
 まだ寝ぼけた街の中で、私たちの足音と、息遣いだけが聞こえる。……それでいいと思う。それが、いいと思う。

 隣に目を向ければ、少しだけ苦しそうで、でもしっかりついてくるみのりの姿。なんだかキラキラして見えるのは、朝日に輝く汗のせいか……それとも、かっこよく思っちゃうから?

「みのり、本当に大丈夫?」
「だい、じょうぶ……! まだまだ、いけるよ!」
「分かった。じゃあこのペースでもう少し頑張ろっか」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「はあ……はぁ……っ」
「お疲れ、みのり。お茶買ってきたよ」
「ありがとう、遥ちゃん。……はぁ、あったかい……」

 その後10分くらい走って、コースにある公園で休憩をとる。
 まだ白い息を整えながら、2人ベンチに腰を掛けた。

「ベンチ、ちょっと濡れてるね」
「まあこの時間だったら仕方ないね。……みのり、足とかは大丈夫?」
「うん! でも結構息が上がっちゃって……さっきのペースでこれ以上走るのは大変かも……」
「そうだね、それなら帰りはクールダウンも兼ねて少しゆっくりめに走ろうか」
「はーい! ……あっ」
「あっ……日の出」

 建物の隙間から顔を出した太陽が、青い空を一気に橙に染め上げる。
 直視できないほど眩しいその明かりと、重なり合う2色のコントラストが、とても――

「「綺麗……」」

 重なった声にびっくりして、思わず2人で吹き出してしまった。

「綺麗だね、みのり」
「そうだね、遥ちゃん! 日の出ってお正月のイメージが大きいけど……春の日の出も、とっても素敵だね」
「これからどんどん早くなるから流石に夏になったら見れないだろうけど……でも、明日明後日とかならまだこうやって見れるかも」
「そっかぁ。……えへへ、楽しみだね!」
「そうだね。また見れるように、明日も頑張ろうね」
「うん!」

 ……よし、そろそろいける?
 うん! いつでも走れるよ!
 空になったペットボトルを捨て、もう一度2人走り出す。

 目を覚ます世界を駆ける彼女は、
 目がくらむ程、眩しかった。

- Afterword -
2021/04/24 「みのはる100ラリー」31本目

一番好きな時間帯は夕暮れですが、朝焼けの景色も大好きです。
理由は夕暮れと一緒ですね。青とオレンジが混ざり合う時間だからです。

2人は高校生だからどうしても放課後の夕暮れの方が身近になってしまいますが、
一緒に過ごす時間が増えるにつれ、夜明けを2人で過ごす日も出てくるのではないかと。
1日のはじめから、笑い合えるのならもっと素敵ですね。