散って尚、貴方に渡す花筏

「みのり、いいとこ見つかった?」
「ううん、あんまり……。遥ちゃんは?」
「私も微妙かな……」

 今度の週末、旅行にでも行かない?
 遥ちゃんにそう言われた時は、びっくりして気絶しそうになった。いつものお出かけとは違う、特別なイベント。それは遥ちゃんにとっても同じみたいで、旅行の計画を立ててる間、声のトーンがとっても浮き足立っていた。こんなに分かりやすい遥ちゃんは珍しすぎて、それだけわたしとの旅行を楽しみにしてくれてるって思うと、なんだか胸の奥がぽかぽかしてくる。

 でも、ここで問題が1つ……。
 2人とも気合が入りすぎて、逆に旅行先が決まらないのです……!

「せっかくこの時期に旅行に行くんだから、春らしいことがしたいよね……」
「うーん……海……は、どちらかというと夏っぽいよね……」
「春らしいって言ったらやっぱり観光メインかな……うーん…………」

 はじめての旅行。
 はじめてだからこそ、少しでも素敵な思い出にしたい。
 でもそう考えるとどんどんハードルが上がっていって……2人でうんうん唸りながら、時間だけが少しずつ過ぎていく。

「春……ってなると、やっぱり桜かな? 東京の桜はもう散っちゃったし……」
「なるほど……そうなると北海道とか東北あたりかな。北海道はちょっと遠いし、東北でいろいろ調べてみよっか」
「うん! わたしもちょっと調べてみるね!」

 検索ボックスに『東北 桜』。サジェストで『桜の名所』って出てきたから、なんとなくそれで検索する。『桜名所ランキング』、『桜の見頃情報』……。情報が多くて、なんとなくピンとこない。

(画像検索とかの方がいいかな……?)

 なんとなくそう思って画像検索に切り替える。
 出てきた1枚目の写真が、どうしようもなくわたしの記憶に焼きついた。

 弘前公園の桜並木。
 川を挟むように立ち並ぶ桜たちは、写真を見ただけでも心が躍るくらい綺麗で、明かりに照らされた夕暮れ時の桜の花びらがきらきらと輝いていた。
 そして何より、川を覆う、桜の花びらの絨毯がに、目が釘付けになって——。


「「ねぇ、ここ……!!」」

 遥ちゃんのスマホには、わたしのものと同じ画像。
 思わず2人吹き出した。やっぱりわたしたち、おんなじものに惹かれるんだね。

「『花筏』って言うんだって」
「花筏……! すごい、なんだかかっこいいね!」
「そろそろ散り始めだけど……今度の週末まではギリギリ見頃みたい」
「よかった……それじゃあ」
「うん、ここにしよっか」

 それまでの時間が嘘みたいなくらいの即決だった。
 ぼんやりとしていた旅行の計画が、途端に形をもちはじめる。

「楽しみだねー!」
「そうだね。写真で見てあれだけすごかったんだから、実際に見ると言葉失っちゃうかも」
「うん! それに……」


 ……あの花道が海に続いてると思うと。
 なんだか、すごく大切な景色に感じられて。


「……みのり?」
「ごめん、何言おうとしてたか忘れちゃった!」
「もう、みのりったら。……よし、それじゃあ泊まるところとかも探して行こうか」
「はーい!」


 直接遥ちゃんに言うのはなんだか恥ずかしいから。
 この気持ちは、わたしだけの秘密で。

- Afterword -
2021/04/26 「みのはる100ラリー」33本目

「花筏」とは、水面に散った花びらが連なって流れていく様を表した語です。
他にもそういった名前の植物も存在してはいるのですが、
このお話では前者の意味で使っています。
東京だと目黒川が綺麗でした。桜の時期にぜひ。

ラリーのお相手の方に教えていただいて知った概念なのですが……。
本文中にある通り、花々が海へと続いていくことも含めて、
とても2人にぴったりの景色だとは思いませんか?