恋文溶けるは藍の海

 拝啓

 桜舞い、草花の彩る季節となりました。気温の変化が激しい今日この頃ですが、お元気にお過ごしでしょうか。
 ……なんて、ちょっと固すぎたかも。
 この手紙にあんまり深い理由はないけれど、言葉にすると想いが伝わりやすいって聞いたから、こうして手紙を書いてみました。

 こうやって部屋で一人ぼんやりとしていると、今までの出来事がたくさん頭の中に浮かんできます。
 屋上で初めて顔を合わせた時ときのこととか、初めての配信のこととか。この前はスマホのアルバムに、初ライブの時の写真が「2年前のイベント」ってタイトルで出てきてびっくりしちゃった! もうそんなに経つんだなぁって。あと2週間もすれば大学生なんだって、まだ実感わかないくらい。

 もちろん、全部覚えてるよ。
 セカイのことも、ステージの上から皆で見たサイリウムの海も、地獄のダンス練習も。一緒に食べたシュークリームの味も、遥ちゃんの声も、全部。

 ……今からわたし、変なことを書くと思うけど。
 「変なの」って、笑ってくれたら嬉しいな。


 あなたのことが、大好きです。


 大切な憧れで、大切な仲間で、大切な友達で、でもそんな言葉だけじゃ言い表せないくらい、遥ちゃんのことが大好きです。
 思い出すだけでドキドキしちゃうくらい、声を聞くだけで口元が緩んじゃうくらい、あなたのことが大好きです。
 自分でも変なことを言ってるって分かってるけど。でも、遥ちゃんのことを思うと、いてもたってもいられなくなって。直接想いを伝える勇気はないから、この手紙に込めて、届けます。

 ちゃんと渡せるか今でもちょっと不安だけど……。もしかしたら遥ちゃんがこれを読むころには、今日から10年も20年も経ってるかも……!
 がんばってちゃんと渡すけど、遅くなっちゃっても許してください。


 ……環境なども変わり、体調を崩しやすい時期です。
 どうか、お体にはお気を付けください。

 敬具


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「なんて、ね」

 半年ぶりの屋上。見慣れた夕暮れの景色に、忘れられない誰かの声が、聞こえた気がした。

「本当は、海とかのほうがよかったのかも」

 でも、これはわたしのわがままだから。わたしの思い出の、この屋上で。
 花柄の便箋に手をかけて、小さく、小さくちぎっていく。
 想いのカケラは風に舞って、藍の空に溶けていく。


 ねえ、遥ちゃん。
 大好きだよ。
 昔だけじゃなくて、今でも、ずっと。

- Afterword -
2021/04/28 「みのはる100ラリー」35本目

お題は「ラブレター」でした。

いくつかの解釈ができる作品かとは思いますが……。
当時の私は多くを語ることを選ばなかったため、
その意思を尊重し、ここでも詳細な言及は控えたいと思います。