姫見習いと貴女の魔法
家のドアを開けると、お姫様が目の前にいた。
「おかえり、遥ちゃん!」
とてとてと駆け寄ってくる姿も、お風呂上がりなのかちょっと赤い頬も可愛いけど……一番目に留まったのは、ふわりと揺れるピンクがかったネグリジェ。
「みのり、それ……」
「これ? こはねちゃんが教えてくれたんだ〜。写真だけでもすっごくかわいくて、思わず買っちゃった!」
そう言いながらくるりと回って、風を受けたシルクが、またふわりと。
……ありがとう、小豆沢さん。思わずにやけてしまいそうになる口元を必死に抑えながら、私は頭の中で小豆沢さんに心からのお礼を伝えた。
「変じゃない、かな? 似合ってる?」
「うん。すごく似合ってて、一瞬お姫様と見間違えちゃった」
「遥ちゃん、おおげさだよ~!」
それにしても、こんなに似合うものなんだ。確かにここまでシンプルな服を着ているみのりは見たことがなかった気がする。私服も派手ではないけどある程度の華やかさがあるし、ステージ衣装は当然装飾まで凝ったものが多い。……盲点だった。このネグリジェがこんなに似合うなら、白いワンピースとかも似合う気がする。ひまわり畑で佇む、麦わら帽子に白ワンピースのみのり……あ、駄目だ、想像しただけで変な声が出そうに――
「そうだ! これ、遥ちゃんの分も買ってるんだ~!」
「……へ?」
私の分も?
……この、お姫様みたいな服を、私が?
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「み、みのり……やっぱりちょっと私には似合わない気が……」
「…………」
「……みのり?」
「はっ!? ご、ごめんね……遥ちゃんが素敵すぎて、意識が……」
「そ、そっか……」
……みのりはこう言ってくれるけど、なんだかスース―してどうにも落ち着かない。仕事でもあまり着たことがないし、そもそも私にこういう可愛い系は……。
「みのり、やっぱり私にはあんまり似合ってないんじゃ……」
「えっ!? そんなことないよ!! ……ほら!」
みのりに連れられて、鏡の前へ。
……恥ずかしそうに目を合わせてくるお姫様が、確かにそこにいた。
自分で言うのも変な話だけれど、青みがかかったネグリジェは、ずっと着ていたかのように綺麗に馴染んでいて。
「……悪くないかも……」
そう思ってしまうくらいには、その、似合っていた。
「でしょ? 確かにいつも遥ちゃんが着てる服とは雰囲気が違うけど、遥ちゃんはなんでも似合うから!」
「それは大げさだよ……でも、ありがとうみのり。こういうのは初めてだけど、思ったより動きやすくていいね」
「そうだね……えへへ」
「どうしたの、みのり?」
「ううん。……遥ちゃんを見てると、『お姫様みたい』ってさっき言ってた意味が分かった気がして……」
頬を赤らめて、みのりが笑う。
お姫様みたい、か。みのりに改めて言われるとなんだか胸の奥がすごくくすぐったくて、そこから何も言えなくなった。……きっと私も、同じように顔が赤くなってるんだろうな。
「……そ、そろそろご飯にしようか」
「う、うん! 今日は何にするの?」
「お鍋にしようかなって思って、材料買ってきたよ。ちょっとお姫様っぽくないけど」
「ううん、大丈夫! わたしも準備手伝うよ!」
お姫様が2人。なんだかおとぎ話みたいだね。
舞踏会なんて大層なものはないけど……
どうせなら、もう少しだけこの魔法が続けば。
なんて言うのはやっぱり恥ずかしいから、そんなことは考えなかったことにした。
……私にお姫様は、ちょっとだけ荷が重いのかも。
2021/05/01 「みのはる100ラリー」37本目
これを纏めている現在の私は、サイトへの掲載順とは逆、最新のものから作品を纏めているのですが、
みのはるが同棲していることに一切の説明がないのは多分これで3作目くらいです。
お前本当にいい加減にしろよ。
パジャマというのは結構盲点というか、公式でもなかなか描写してもらえない要素な気がします。
大抵の作品は家でリラックスしている時間を物語のメインに据えないですし。
だからこそこういうのは想像のしがいがありますよね。
みのはるに限らず、こういった時間の物語はいろいろと深めてみたいものです。