花里みのりの断髪式

「み、みのり、本当にいいの……?」
「うん大丈夫! おねがいします!」
「で、でも、せっかく伸ばしてたのにもったいないんじゃ……」
「遥ちゃん、わたしよりあたふたしてる……」


 みのりが、髪を切ってほしいと言い出した。
 なんでも思い切ってイメチェンしてみたいとかそういうことみたいで、みのりの決めたことに口出しする理由もないから一度は快く引き受けたけど……。
 いざハサミを片手にみのりの後ろに立ってみると、途端にみのりの長い髪が惜しくなってきた。


「せ、せっかくここまで伸ばしてるのに……」
「大丈夫! 覚悟はできてます!」
「でも……」
「も、もう遥ちゃん、気持ちが揺らいじゃうから……!」

 私、みのりの髪、好きだったんだなぁ。明るいブラウンで、陽の光を浴びてキラキラ輝く、そんな髪。全然意識してなかった事実に今更になって気付いてしまった。
 ……でも、何度も考えてるけど、みのりの決めたことに私が口出しするのも良くないし……。

「……よし、覚悟決まった。やろう、みのり」
「どうして遥ちゃんの方が緊張してるの……?」

 恐る恐る、茶色の髪に刃を通す。
 静かにぱさりと、切られた髪が落ちていく。

「私と同じ感じでいいんだっけ?」
「うん、それでお願いします!」
「普段あんまりこういうことしないし、うまく切れるか分からないけど……」
「それも大丈夫だよ。ちょっと不格好だとしても、遥ちゃんに切ってほしいから」
「そっか。……うん。それじゃあ、精一杯頑張るね」

 そこからは2人無言で。
 ただ、ハサミの音だけが鳴り続けていた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「……よし、できた」

 ハサミを片付けて、鏡に向き合う。
 少し不格好だけど、私と同じ髪型のみのり。なんだか双子みたいでちょっと変な感じがする。

「ごめんね、やっぱりちょっとだけ不格好になっちゃったけど」
「ううん、全然気にならないよ! ありがとう遥ちゃん!」
「そっか、それならよかった。あんまり髪払いきれてないから、一旦お風呂に入ってきた方がいいかも。その間にこの辺掃除しとくね」
「はーい! ありがとう、遥ちゃん!」
「……そういえば」

 落ち着いたこのタイミングで、ずっと思っていたことをみのりに尋ねる。

「なんで急に、髪を切ろうだなんて思ったの?」
「あれ? わたし、言ってなかったっけ?」
「イメチェンがしたいとは聞いたけど、それだけじゃないって気がして。言いたくないならいいんだけど……」
「ううん、大丈夫!」

 お風呂場に向かおうとしていたみのりがくるりと振り返って、近くの椅子に腰かける。

「前、こはねちゃんが髪をばっさり切ったの、覚えてる?」
「うん。『こはねちゃんが失恋したー!』って大騒ぎしてたよね」
「そ、そこまで思い出さなくていいよ〜! ……それでね、その理由を聞いた時、すごくかっこいいなぁって思ったの。それで、最近その時のことを思い出して」
「自分も覚悟を決めたいから、思い切って髪を切った……ってこと?」
「うん! 最近いろんなことがあったし、これからもっと大変なことがあるんだって思ったら……今のこの、頑張ろう、頑張りたい!って気持ちを忘れたくなくて」
「……そっか。うん、すごく素敵だと思う」
「えへへ、ありがとう!」

 ……でも、それなら。
 この際なので、もう一つの疑問もぶつけておくことにする。

「それなら、私とお揃いじゃなくてもよかったんじゃない? それこそ小豆沢さんみたいな髪型でもよかったんじゃ……」
「あっ、それはね……」

 いつの間にか立ち上がっていたみのりが、私のところに駆け寄ってくる。
 また鏡に、双子みたいな私たちの姿が写った。


「遥ちゃんとお揃いなら、遥ちゃんと同じ景色が見れるかなって思って!」


 そう言って笑うみのりは、とても綺麗で、可愛くて。
 ……ああ、敵わないな。私はきっとこうは笑えない。そう思うと、途端にみのりが見ている景色が、強く強く、愛しく感じてきた。

「……それじゃあ、私は逆に髪を伸ばしてみようかな」
「ええっ!? せ、せっかくお揃いにしたのに……!!」
「ふふっ、冗談だよ」

 髪を伸ばせば、貴女が見ていた景色が見れるかな、なんて思ったけど。
 今はまだ、みのりとお揃いの景色を見ていたいから。
 ……だからもう少し、私たち2人、このまま。

- Afterword -
2021/05/04 「みのはる100ラリー」39本目

「みのはる100ラリー」は、2人で交互に合計100本の作品を書く狂気の企画。
そんな物量にものをいわせるこの企画で生み出された作品は、大きく2つのタイプに分かれます。
「まあこんなもんだよね……」という感じの作品と、
「数要る企画の作品にしては頑張ったのでは?」という感じの作品です。
この作品は、後者になります。

髪型が人に与える印象というのはきっと大きくて、
だからこそ、たまにそこに着目した作品を書いてみたくなります。
失恋したから髪を切る、なんてのが定番どころではありますが……。
こういうお揃いにしたくて髪を切るってのも、なかなか可愛いとは思いませんか?