Teasers
今日のみのりは、何かがおかしい。
「遥ちゃん、何見てるの?」
私に抱き着くように、画面を覗き込んでくるみのり。まずこの時点でおかしい。一緒に暮らし始めて1年くらいになるけど、こんなことしてきたことなんて一度もない。
「ダンスの練習動画?」
「うん。考えたこともなかった視点の話が出てきたりするし、教え方も上手だから……ダンス練配信とかの参考になるかなって思って」
それに、その……何がとは言わないけど、右腕にあたってる。というか、これは当てに、来てる、気がする。動画を参考にして、とか言ったけど、正直なところ右腕の感覚に全部持っていかれて何も集中できない。み、みのり……どうしてこんなこと……?
「ほんとうだ、すっごく分かりやすいね!」
「ちょっ、ちょっとみのり……」
それに、何よりシャツ。このサイズが合ってないTシャツ。明らかにおかしい。こんなもの今まで着たことなかったよね? その、首回りも大きく開いてるからその……胸が……胸が…………!!
「み、みのり!!」
流石に耐えきれなくてみのりを引き剥がす。
こんなの、心臓がいくつあっても保たない……!!
「どうしたの? 遥ちゃん」
「みのり……その……そういう、胸元が開いてる服はアイドルというか、女の子としてあんまり良くないと思うな……」
「……遥ちゃん、中、見たの?」
「えっ、いや、そんなことは」
「……遥ちゃんのえっち……」
――!?
えっ……エッ、えっ!?
い、いやそんなこと、そんなことない。ちょっといつもと違うから気になって目がいきがちになってただけで、そ、そんな、え、えええ……ああもう!!
「みのり! あんまり変なことするのはやめて!」
「変なことって? 遥ちゃん、どうして怒ってるの?」
「……耳、真っ赤になってるよ」
「ふぇっ!?」
「ごめん、嘘。……やっぱり無理してたんだ」
「あっ……! う、うう、遥ちゃんひどいよ~……」
さっきまでのどこかイケイケな感じとは打って変わって、いつものしょんぼりみのりが顔を出す。……うん。やっぱりこっちの方が可愛いし、みのりって感じがして落ち着く。
「どうして、急にこんなことしだしたの?」
動画を閉じて、みのりに向き合う。
観念したのか、ぽつりぽつりとみのりは話し出した。
「……遥ちゃんと一緒に暮らし始めて、もう1年になるなぁって思って」
「……うん、そうだね」
「それで、その……ずっと一緒にいるのに、一度もそういうこと、したことないなって思って……」
「……」
確かに、私たちは一度も、「そういうこと」はしたことがない。みのりからそういう話を切り出されたこともなかったし、もちろん、私がみのりに手を出すようなこともなかった。
「だから……わたし、遥ちゃんにとって、そういう魅力がないのかなって思って……」
「……だから、こんなこと?」
「う、うん……」
自分のしていたことを改めて認識したのか、顔を真っ赤にして俯くみのり。
「……そんなことしなくても、みのりはちゃんと魅力的だよ。だから、その……びっくりしちゃうから、こういうことはちょっとやめてね……?」
「う、うん! ごめんね、遥ちゃん……!」
とはいえ、誰かに悪いことを教わったとか、そういうのじゃなくてよかった。とりあえずこのままだと肌寒くて風邪をひいちゃうだろうし、何より私の心臓が相変わらず保たない。何か着替えか羽織るものを……立ち上がろうとする私の腕を、みのりが引き留めた。
「ねえ、遥ちゃん」
「ん? どうしたの、みのり」
「――ドキドキ、した?」
……一つ、補足をしなきゃいけない。
確かに私はこの1年、一度もみのりに手を出したことはない。けど……そういうことを、一度も考えなかったわけじゃない。
むしろそういう「よくないこと」を考えることは最近どんどん増えてて……みのりを傷つけたくない、みのりに嫌われたくないって一心で、この1年間、ずっと我慢してきた。
そこに今日のイケイケなみのりで、しかもその後「みのりも私と同じことを考えてた」っていうおまけまで付いてきて……私の心は決壊寸前。
そう、だから、今の私はもう。
胸元を押さえて恥じらうみのりの、その台詞に耐えられるはずがなかった。
「ひゃん……っ」
みのりに覆い被さるように、ソファに倒れ込む。
慌てるみのりの右手をとって、私の左胸へと当てた。
「は、遥ちゃん……?」
「みのり、分かる?私の心臓、こんなに早く動いてる。……みのりが、こんな風にしたんだよ」
「え……?」
「ありがとう、みのり。頑張ってるみのりも、恥ずかしがってるみのりも、とっても可愛かったよ。だから——」
「——今度は、私の番だね」
耳元でそっと囁いた。意味を理解してまた真っ赤になるみのりが愛しくて、全部食べてしまいたくなる。
ずっと抑え込めてたはずの何かが、どくどくと溢れ出して止まらない。
今日の私は、何かがおかしい。
2021/05/11 「みのはる100ラリー」47本目
昔の自分はこんな作品も書いていたのですね。疲れていたのでしょうか。
お題が「小悪魔」と指定された上での作品なので、
当時も泣きながら書いていた可能性はありますが。
タイトルにある「teaser」という単語には、「悩ます人」「じらす人」という意味があるそうです。
……曖昧な言い方なのは、私自身がそれを覚えてなくて改めて調べたからですね。
本当に、どこからこの単語を引っ張ってきたのか…………。
そういうところも含めて我ながら不思議な作品です。