パニックチューン!

 アラームの音で、目が覚める。
 ……私、自分の曲を目覚ましにしてたっけ……? 寝ぼけ眼でそんなことを考える。……昨日はみのりと遅くまで長電話してたし、そこでの流れで変えたりしたのかも……。
 目を覚ますために、一度大きく伸びをする。何か違和感がある気がするけど、どうにも頭が回らない。とりあえず顔を洗った方がいいかな……。

「ふわぁ……」

 みのりの声がする。……もしかして私、寝落ちしちゃった?

「ご、ごめんねみのり。もしかしてずっと起きてた?」
 みのりの声で、私はそんなことを口にした。

 ……え?

「……え?」

 ど、どうして、私の喉から、みのりの声が、出るの……?


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「あ、おねえちゃん、おはよー」
「ね、ねえ! わたし、何に見える!?」
「え? いつものみのりおねえちゃんだけど……」
「やっぱりわたしみのりだよね!? ど、どうして……!?」
「おかあさん、おねえちゃんがこわれたー」

 洗面所に転がり込んで鏡を見る。
 私が見ているはずの鏡には……みのりの姿が、映っていた。

 とりあえず顔を洗って、思いっきり顔を引っぱたいてみる。……じんじんと痛い。痛いってことは、これは夢じゃない。
 ……明らかに常識から外れた状況。でも完全に目が覚めた私は、自分で思ったより冷静になっていた。常識離れした「セカイ」の存在が日常の中にあったことも大きいと思う。

「とりあえず、みのりと連絡とらないと……」

 多分だけど、今私の身体にはみのりが入ってる。もしかしたら愛莉や雫も巻き込んでもっと大変なことになってる可能性もあるけど、それを確かめるためにも、私は一度私の身体と連絡をとらなきゃいけない。
 でも、みのりと私の連絡手段はスマホしかない。そして当然、私はみのりのスマホのパスワードを知らない……。試しにみのりの誕生日を入れてみたけど駄目だった。あんまり適当に試してるとロックがかかっちゃうし、下手なことはできない。
 ……みのりのスマホのロック画面、体育祭の時の私なんだ。みのりのことだから私を壁紙にしてくれてるのかな、なんてちょっとうぬぼれたことを考えてはいたけど、体育祭でちょっとはしゃいでる私の写真は、それはそれで恥ずかしいかも……。

「……まって」

 試しに、ロック画面に『1005』と入力してみる。

 開いた鍵のマークと一緒に、4人で撮った写真の壁紙が現れた。

 ……なんだかすごく恥ずかしい。恥ずかしい、けど、これで私の身体と連絡がとれる!


『……ど、どちら様でしょうか?』
 通話はすぐに繋がった。電話越しに自分の声を聞くのは、なんだかすごく違和感がある。

「その感じ……もしかしてみのり?」
『も、もしかして遥ちゃん!? うん! 私、みのりだよ!』
「よかった、それなら話は早いね。……これ、どうしようか?」
『ど、どうしよう……とりあえず、なんでこうなったのか分かるまではこのままだよね……?』
「そうだね……しばらくはこのまま過ごすしか……。とりあえず、学校に着いたら一度屋上に集まろう。それでだいじょうぶ?」
『う、うん、分かった! じゃあ、8時10分に屋上ね!』
「わかった。じゃあ、またあとで」
『あ、待って遥ちゃん!』
「ん、どうしたの?」
『その……遥ちゃんは、私のスマホから、電話をかけてきてるんだよね……?』
「うん、そうだけど……」
『……パスワード、分かったってことだよね……?』
「……」
『……』
「……、じゃ、じゃあ切るね。またあとで……」
『待って遥ちゃん! 言い訳を! 言い訳をさせてぇ!!』

 ……なんだか、私の声でみのりの悲鳴が聞こえてくるの、すごく恥ずかしいな……。
 とにかく状況は理解できた。できたけど、私たち2人でなんとか誤魔化そうとしても、絶対大変なことになる。
 協力者を、探さないと。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「で、アンタが『みのりと身体が入れ替わった』なんて意味わからないこと言ってくるから一応来てあげたわけだけど……」

 数十分後。私の相談を受けて半信半疑で屋上に来た愛莉と雫が、唖然とした顔で私を見つめる。

「……本当に中身遥なのよね? わたしにはいつもよりひどいみのりにしか見えないんだけど……」
「う、うん……これはわたしが一番びっくりしてる……」

 ……私が入ったみのりの身体は、膝は擦りむいて制服はびしょ濡れ。頭には鳥のフンと……あと、昆布が乗っていた。

「遥ちゃん、大丈夫……? ……あら? でも身体はみのりちゃんだから、みのりちゃんの心配をした方がいいのかしら……?」
「わたしはまだみのりのドッキリを疑ってるけどね……。とりあえずタオル持ってきたから身体拭きなさい」
「ありがとう……まさか自分の傘でつまづいた直後に上からじょうろと昆布がふってきて、あげくカラスにまで追いうちをかけられるとは思ってなかった……みのりはこれだけの不幸をコントロールして生きてるんだなって……」
「凹み方が遥のそれね……まあセカイのこともあるし、入れ替わりも普通にある気がしてきたわ……」
「みのりちゃん、元気出して? ……今は遥ちゃんだっけ……?」

 身体を拭いて、一息つく。あとはこのびしょ濡れの制服をなんとかすればひとまずは落ち着けるかな……。小豆沢さん辺りに借りるしかないか。

「それで、結局これからどうするの? みのりの身体のまま1日過ごす?」
「うん、それしかないと思う……。とりあえずみのりとわたしの知り合いには一通り事情を説明してるから、半信半疑でもうまくごまかす協力はしてくれる、はず。あとはみのりと口裏合わせをするだけかな」
「その辺りの根回しはさすが遥って感じね」
「それにしても、みのりちゃん遅いわね……」
「ごめん、お待たせ!!」

 私の姿をしたみのりが、屋上に飛び込んでくる。

「遥……じゃなくてみのりなのよね、今は」
「……あら? 遥ちゃん、どうしたの?」

 ……何度も見慣れた私の身体だ。毎日鏡で見てるし、みのりが入ってるって分かった今、特に気にすることなんてない。


 ないはずなのに。
 なんで、こんなにキラキラして見えるの?

 胸がドキドキする。私を見てるだけなのに、なんで? みのりの身体だから? じゃあ、みのりからはいつも私がこうやって見えてるってこと? それなら、今みのりは……いつも私が見てるみたいに、みのりの姿が見えてるってこと……!?

「遥ちゃん? みのりちゃんも、どうかした……?」
「あっ、ごめん! なんだかすっごく遥ちゃんがキラキラして見えて……!」
「遥がって……今遥が入ってるのはアンタの身体でしょ? 毎日鏡で見てるじゃない」
「そ、そうなんだけど……でも……!!」

 困惑する私たちをよそに、予鈴のチャイムが鳴り響く。

「あっ……!」
「ど、どうするのよ! もう時間ないわよ!?」
「え、えっと、とりあえず20分休みにまた集まろう! みのり、星乃さんと天馬さんには話を通してるから、2人をたよってなんとか2時間はごまかして!」
「う、うん! 分かった!!」
「大丈夫かしら……」
「だいじょうぶかは、わからない。けどもうまずはやるしかない……!」

 とりあえずHRに滑り込めるように、慌てて4人、階段を駆け下りる。
 胸のドキドキは止まらない。対策を考えなきゃいけないのに、身体と頭が私のことばっかり考えて止まらない。

 前途多難。何もかもがごちゃついたまま。
 私の長い長い1日が幕を開けた。

- Afterword -
2021/05/12 「みのはる100ラリー」51本目

「入れ替わり」がお題の回でした。
いいですよね、入れ替わり。いいですよね、心が身体に引っ張られるシチュ。
当時のことはあまり覚えてはいないのですが、
多分手癖でウキウキで書いたんだろうなってことが文の端々から伝わってきます。

やや打ち切りっぽい終わり方にはなっていますが、
当時のツイート曰く、無限に書けそうなので無理やり打ち切ったみたいです。
妥当な判断だったと思います。