その憂鬱も飲み干して

 みのりと、喧嘩した。

 どっちが悪いかって言われれば、多分私が悪い。
 みのりが最近いつも何か言いたげにしてたから心配してたのに、頑なに何も言ってくれないから少しムキになってしまった。そこからはお互い引くに引けなくて言い合いになっちゃって……結局寝るまで一言も口をきけてない。

 2段ベッドの上にはみのりがいるのに、手を伸ばせば届きそうなこの距離がすごく遠い。
 変なもやもやが胸につっかえて、伝えたい言葉が出てこない。
 ……明日は、ちゃんと謝れるといいな。そう思いながら、息苦しいまま目を閉じた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 遠くから聞こえる物音で目が覚める。時刻は午前7時。
 上のベッドを覗いてみるとみのりの姿がない。……休みの日にこんなに早起きして、何してるんだろう。

 リビングに出ると、エプロン姿のみのりの姿。
 ……ずっと朝ごはんを作ってたらしい。

「……おはよう、みのり」
「……うん、おはよう。遥ちゃん」
「運ぶの手伝うよ」
「……ありがとう」

 会話は、まだぎこちない。こんなんじゃ駄目だとは思ってるけど、なかなか声が出なくて……こうやって、何も考えてないふりをしながらみのりを手伝ってあげることしかできない。

 食卓に並ぶのは、ご飯に焼き鮭、ほうれん草のおひたし、そしておみそしる。
 朝ごはんにしてはちょっと豪華すぎないか心配になるような献立。見てるだけでおなかがすいてくる。

「いただきます」
「いただきます」

 少しのやりにくさはずっと感じながら、おみそしるを一口。


「……おいしい」
「おみそしる、雫ちゃんがレシピ教えてくれたんだ」
「雫が? ……そっか、だから懐かしい味がするんだ」
「雫ちゃん、いっつも水筒におみそしる入れてきてたもんね」
「だんだん私たちの方もすっかり慣れちゃってね」

 やさしい味噌の味が身体を温めてくれるのと一緒に、喉の奥につっかえていたもやもやが、解けて溶けていく。
 ……今なら、言えるかも。

「ねぇ、みのり」
「遥ちゃん、昨日はごめんね」
「……ううん、気にしてないよ。むしろ、私の方こそごめん」
「は、遥ちゃんが謝ることないよ……! 遥ちゃんが心配してくれてるってのはちゃんと分かってたし、わたしが子供っぽいことしちゃったのが悪いんだから……!!」
「いやいや、私もちょっとムキになってきつい言い方しちゃったし……。先に嫌な思いをさせちゃったのは私の方だよ」
「いやいや! わたしが……!!」
「私が……」

 ……不意に、話が堂々巡りになってることに気づいた。
 意識してみるとなんだかおかしくって、耐えきれずに2人で笑い合う。
 落ち着いた心に、おみそしるをもう一口。

「分かった。……じゃあみのり、最近何を言いたそうにしてたのか、改めてちゃんと聞かせて? そしたら私の方は許してあげるから」
「えっ!? そ、それは……」
「みのりは、昨日のこと反省してるんだよね?」
「うっ……え、えっと……その……。遥ちゃんと、最近お出かけできてないなぁって思って……」
「……え、それだけ?」
「う、うん……でも遥ちゃんも忙しいだろうから迷惑はかけたくないし、あと恥ずかしいしって思っちゃうとなかなか言えなくて……」

 想像してたよりずっと可愛らしい話で拍子抜けしてしまった。
 ……なんだ。大学で嫌な思いをしてるとか、私に対して文句があるとか、そういうことじゃなかったんだ……。


「それなら、今日はちょっと遠出しちゃおうか」
「……へ?」
「ちょうど、いつか行きたいって思ってた水族館があるんだ。行ってみない?」
「……ええええええ!? そ、そそそんな! 遥ちゃん大学のこととか事務のこととかで忙しいんじゃ……!?」
「大丈夫。いつもは手持ち無沙汰だから作業してるだけで、ちゃんと1日2日休んでも回るようにはしてるから」
「そ、そうなの……?」
「うん。だから一緒に行こう?みのり」
「……はい! 喜んで……!!」

 ——1日ぶりの、みのりの笑顔。いつも見慣れてるはずのその顔が、今はすごく大切なものに思えて。
 やっぱり私はみのりがいないと駄目だな……なんて、そんなことをぼんやりと考えてた。

「遥ちゃん、どうしたの?」
「あっ、ごめんなんでもない。ご飯冷めちゃうし、一旦早く食べちゃおっか」
「はーい! 朝ごはん食べ終わったら準備だね!」
「そうだみのり、おみそしるのおかわりってある? もうちょっとだけ飲みたいなって思っちゃって……」
「だいじょうぶだよ、じゃあついでくるね! えへへ、このおみそしるおいしいよね〜!」
「うん。さすが雫のレシピって感じだね。……そうだ、ねぇみのり」
「なぁに、遥ちゃん?」

「……朝ごはん、作ってくれてありがとう。みのりのこういう優しいところ、私は大好きだよ」
「だっ……!? は、遥ちゃんそんな急に……!!」
「ふふっ、みのり、顔真っ赤だよ?」
「は、遥ちゃんだって耳が赤いよ!?」
「えっ……こ、これは……おみそしるが熱くて身体が火照ってるだけだから……!」

 いつもと違う食卓。いつもと違う2人。
 それでもいつもと変わらない、日常。
 そんな改めて噛み締めた幸せを、2杯目のおみそしるで流し込んだ。

- Afterword -
2021/05/16 「みのはる100ラリー」55本目

「おみそしる」がお題の回でした。
朝食のシーンは大好きなので、何回でも書いてしまいます。
ご飯を食べて幸せそうな推しは健康にいいので。

それにしても、この時期は本当に1日1本ペースで作品を上げていますね……。
一応同一人物のはずなのですが、
いったいどこからこれだけのエネルギーが出ていたのでしょうか。