天使はカフェと、屋上にいる。

「いらっしゃいませ……って、えぇっ!?」
「ふふっ。頑張ってるね、みのり」

 日曜日の昼下がり。手持ち無沙汰なのもあって、みのりがバイトしてるというカフェに足を運んでみた。
 ……特にシフトとかは聞かずに思いつきで来ちゃったけど、タイミングは完璧だったみたい。

「ど、どど、どうしてここが……!?」
「天馬さんから聞いたの。ちょうど予定も空いてたから、思い切って来ちゃった」
「な、なるほど……。いきなりだったからびっくりしちゃった! えっと、遥ちゃ」
「あ、みのり。その……名前を呼ばれると、バレちゃうかもしれないから」
「あっ! ……えっと、じゃあ桐谷さん……もちょっと危ないし…………はーちゃん、とか?」
「はーちゃん」
「お席案内しますね、はーちゃん!」
「やめようみのり。多分桐谷さんとかで大丈夫だから。なんかこそばゆくて落ち着かないから……!」

 そんな話をしながら、席へ。
 お冷お持ちしますね!と言い残して、お仕事モードのみのりがぱたぱたとキッチンの方へ消えていく。
 ……青を基調とした、シンプルだけど可愛らしい制服。アイドルらしい衣装も当然似合うけど、みのりはああいう小細工なしで綺麗にまとまった服がとても似合う気がする。
 ……愛莉が着たらどうだろう? ちょっとシンプルすぎるかな、もう少しモチーフとかが多い方が愛莉には合ってるかも。逆に雫が着るならもっと洗練させてもいいかもしれない。身長を生かして、色ももっと落ち着けて……。
 そう考えると、あの制服はみのりだからこそ着こなせる衣装なのかもしれない。そう考えるとなんだかもっと素敵に思えてきた。……私は……私はどうだろう。メイド服とかは仕事で着たことがあるけど、ああいう制服は着たことがないし……。


「お待たせしました! ご注文を……はーちゃん、どうしたの?」
「みのり、その呼び方は本当にやめよう……? えっと、みのりが着てる制服、可愛いなぁって思って」
「これ? かわいいよね! わたしも大好きなんだ!」
「うん。すごくいいから、愛莉や雫が着たらどうなるのかなとか考えちゃった」
「…………」
「……みのり?」
「遥ちゃん、気になる?」
「え?」
「これ、気になる、よね!?」

 ……なんだか嫌な予感がする。
 でもずんずんと近づいてくるみのりの目はとてもキラキラしていて……とても、止められる雰囲気ではなかった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 翌日。

「はい、遥ちゃん!」

 練習前の屋上でみのりが手渡してきたのは、昨日みのりが着ていた制服。
 店長に無理を言って持ち出しの許可を貰って来たらしい。……私に着せるために。

「ほ、本当に着なきゃ駄目?」
「うん! だいじょうぶ、絶対遥ちゃんに似合うよ!!」

 世にも珍しい、押しの強いみのり。この満面の笑みは裏切れない……裏切りたくないけど……やっぱり恥ずかしい……!!
 縋るように愛莉と雫の方にちらちらと視線を向ける。

「遥ちゃんの制服姿、私も見てみたいわ」
「ま、そういうことよ。諦めなさい」

 10秒、たった10秒でハシゴを外された。許せない。

「うん、はい、じゃあ着てくるね……」

 四面楚歌。もう逃げ場はない。
 観念した私は、泣く泣くみのりから制服を受け取った。
 ……ちょっとだけわくわくしてる自分が、少し悔しい。


 10分後。


「……お待たせ……」
 サイズとかが少しだけ心配だったけど、そこは流石みのりと言うか、ちゃんと完璧なサイズのものを持ってきてくれていた。
 ステージ衣装とは少し違う、デザインと機能性を両立させた仕事着。わくわくするのと一緒に、少し気が引き締まる不思議な感覚がする。

「遥ちゃん……!! しゃ、写真撮って良いですか!? 良いでしょうか!?」
「み、みのり、あんまりはしゃがれると恥ずかしいから……!!」
「でも遥ちゃん、本当に似合ってるわね」
「そうね。やっぱり『制服』っていうちょっと堅めの雰囲気が遥に合うのかしら?」

 みのりに気圧される私はお構いなしに談笑する2人。その余裕があるなら助けてよ!!

「やっぱりこの制服は遥ちゃんに似合うと思ってたんだカッターシャツもネクタイも遥ちゃんのかっこいいイメージにぴったりだし主張しすぎないフリルのエプロンもすごくアクセントが効いてて遥ちゃんの可愛さを引き立ててるというか最初に見た時からずっと遥ちゃんが着たら素敵だろうなって思ったから本当にやっと念願の制服遥ちゃんが見れて感無量だよあっちょっと泣きそうかも」
「みのり、落ち着いてみのり、みのり!!」

 完全に何かのスイッチが入ってしまったのか暴走し続けるみのり。
 本当に私までわけが分からなくなってくるからやめてほしい……ああもう、こうなったら!

「やっぱり遥ちゃんはかわい……ひゃっ!?」

 みのりをそっと抱き寄せて、人差し指で口を塞ぐ。


「お客様。他のお客様のご迷惑になりますので……ねっ?」


「○$×□ω#☆*△Д☺~~~~!!!!!!」
「み、みのりちゃん……!!」

 明らかに人が出すものじゃない音を上げてみのりが泡を吹いて倒れた。

「ちょっ……遥!! やりすぎでしょうがー!!」
「ごめん、加減を間違えて……!!」

 ここまでやるつもりはなかったんだけど……もしかしたら私も着慣れない衣装で浮かれてたのかもしれない。
 ……みのりには悪いけど……もう少しだけ、このままなのもいいかな……?

- Afterword -
2021/05/17 「みのはる100ラリー」57本目

今も昔も、何か作品を書くときは、一旦書きたいことなどをメモに纏めるようにしています。
この作品に関しても当時のメモが残っていたので、
昔の私が書きたがっていたものを抜粋して紹介したいと思います。

『およそ人が発するものではない音を喉から出す花里みのり』

推しになんてことさせようとしてんだこいつは。