わがまま
空が暗くなっていく。
お別れの時間が近づいてくる。
「もうすぐ夜になっちゃうね」
「そうだね。そろそろ帰ろっか」
本当はもっと一緒にいたい。遥ちゃんの隣にいたい。夜が過ぎて朝が来るまで、ずっと遥ちゃんを見ていたい。
でもそんなこと言ったら、きっと遥ちゃんは困っちゃう。
遥ちゃんは帰ったら自主トレもするだろうし、宿題もあるって言ってたし、何より明日も朝から練習があるし。
遥ちゃんはわたしだけのものじゃない。遥ちゃんは皆が大好きな、とっても素敵なアイドルだから——わたしのわがままで、遥ちゃんを困らせたくない。
「……みのり、どうかした?」
「ううん、なんでもないよ! ちょっと疲れてぼーっとしちゃってたのかも」
「今日はあちこち回ったもんね。帰ったらしっかり休んでね?」
……でも、「また今度」って言うくらいなら、きっと許してもらえる……よね?
「じゃあ、私はこっちだから。暗いから気を付けて帰ってね」
「はーい! ……ねえ、遥ちゃん」
「また、一緒に遊びにいこうね!」
わたしにできる、精一杯の笑顔。届け、残れって祈りながら、ほんのちょっとのわがままを、あなたに。
「そうだね。また、オフの日はよろしくね」
遥ちゃんの笑顔は変わらない。
きっとわがままとも思われてない。迷惑をかけるのは嫌だけど、「いつものわたし」で流されるのは、それはそれで、少しさみしい。
だからわたしは、もっともっと、
「うん、約束だよ! 遥ちゃん!!」
いっぱいいっぱいの笑顔で、あなたに爪を立てるのだ。
2021/05/22 「みのはる100ラリー」61本目
「お別れは笑顔で」というお題でした。
この企画、たまにこういう搦め手みたいなお題が飛んできます。
短さや拙さはありますが、結構題材としては気に入っている作品です。
大人じゃない、悪い子でもない、そんな普通の高校生に、
「もう少しだけ一緒にいたい」なんて言葉はあまりにもハードルが高くて、
だからこそ、次もありますようにと祈る。そんな感じのお話でした。