Butler
「すごい……こんなにたくさん!」
「本当にすごいね。これ、全部無料で借りれるの?」
遥ちゃんと遊びに来たカラオケボックスは、『150着以上のコスプレを無料貸し出し!』というのが売り文句だった。「本当に何でもあるよ! 絶対花里さんも行った方がいいよ!」ってクラスの子が教えてくれたからこうやって遥ちゃんと来てみたんだけど……本当に、すごい。
専用の衣装部屋に、ずらっと衣装が並ぶ。部屋の奥には試着室が3つ置いてあって……ちょっとした服屋さんって言われても納得しちゃうくらい、わくわくしちゃう景色だった。
「制服に白衣、警察官の衣装……」
「ナース服、メイド服、あとこれは……猫の着ぐるみパジャマ? こんなのもあるんだね」
1着1着、遥ちゃんと衣装を見ていく。コスプレといえばこれ!って衣装から、パッとは思いつかないような珍しい衣装までたくさん。見ていくだけでも楽しすぎて、早く決めないと日が暮れちゃいそう……!
「それでみのりは、私にどんな衣装を着せたいの?」
「へ?」
……「どんな衣装を着せたい」?
……えっと、それってつまり……
「わたしが、遥ちゃんの服を選ぶってこと?」
「うん、そうだけど……」
…………。
「ぴゃっ、わちゃぴばほんにょうにへらんでいーんれすか……!?」
「う、うん。というか、そのつもりで私をここに連れてきたんじゃないの?」
「そ、そんなことは! ……ある、かも……」
「でしょ? それに、私こういうのあんまり詳しくないから……だから、みのりに選んでほしいな」
「……えっと、それじゃあ」
入り口近くにあった衣装。
部屋に入った時から、きっと遥ちゃんに似合うだろうなって思ってたその衣装を、恐る恐る指差す。
「……あれが、いいです」
「これ? ……えっと、本当にこれでいいの?」
「う、うん。きっと遥ちゃんに似合うから……」
「分かった。じゃあ、ちょっと待っててね」
遥ちゃんが、試着室に消えていく。
……まだ何も始まってない。ここからが本番なのに……遥ちゃんの姿を想像するだけで心臓がばくばくして、倒れちゃいそうだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「お待たせ、みのり」
カーテンを開けた私を見て、みのりがフリーズする。予想してた反応ではあるけど、改めてリアクションされるとちょっと恥ずかしい。
……みのりが選んだ服は、女性用の執事服だった。裾の長いスーツとジャケット、そして黒のネクタイ。こんな衣装を着るのは初めてだけど、背筋が伸びて気が引き締まるこの感覚は悪くない気がしている。
「ありがとう……ございました……!!」
「泣かないでみのり。今から歌うんだから。まだ始まってすらいないから」
感動で咽び泣くみのりをどうにか宥める。こんなに喜んでもらえるのは嬉しいけど、それはそれとしてやっぱり恥ずかしい。それに…………
「うぅ……ごめんね、遥ちゃん……とっても素敵すぎて……」
「大丈夫だよ、気にしないで」
「えへへ、じゃあそろそろ」
「じゃあ次はみのりの番だね」
「……へ?」
一番目を惹かれた衣装を持って、みのりに詰め寄る。
……それに、喜んでる場合じゃないよ、みのり。ここまでの流れは全部織り込み済み。ごめんね。こんなに素直にみのりのお願いを聞いたのは、全部みのりにこの服を着せるためなんだ。
「は、遥ちゃん……流石にその服はわたしには似合わないんじゃ……!?」
「大丈夫。絶対似合うよ。それに、私はみのりが着てほしかった服を着たんだけど……みのりは、私の着てほしい服を着てくれないの?」
「う……うぅぅ……!!」
みのりは優しい。こう言って押せば、みのりは絶対に断れない。
涙目になりながら試着室に消えるみのりを見て、流石に少し罪悪感が湧いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「お、おまたせ……しました……」
黒いドレスに身を包んだみのりが、小さく呻きながら試着室から出てきた。
……私がみのりに着せたのは、ゴシック風のロリータ衣装。フリルで可愛さを出しながらも黒を基調によく纏まった衣装だから、みのりにきっと似合うはずだと思ったけど……やっぱり、私の予想は間違ってなかったみたい。
「すごく可愛いよ、みのり」
「うぅ……恥ずかしい……」
「大丈夫。似合ってるから自信を持って」
胸元のリボンをいじりながら、うわごとのように何かを言っているみのり。
こんなに恥ずかしがってるみのりは珍しい。少しだけドキドキして浅くなる呼吸を、みのりにバレないようにそっと整えた。
「……でも遥ちゃん、どうしてこれを選んだの?」
「こういう服って、みのりはなかなか着ないでしょ? だから、せっかくだしいつもと違うみのりも見てみたいなって思って」
みのりに限った話でもないけど、日常でこういう服を着る機会はそうそうない。特に、みのりは落ち着いてまとまった服や少し大人っぽい服を私服に選ぶことが多くて、可愛さに振り切った服を着ることは意外と少ない。
……せっかくこんなにたくさん衣装があるんだから、いつもと違うみのりが見てみたい。そう思った私の目に留まったのが、このゴスロリ衣装だった。
と、これが一つ目の理由。
「それに……せっかく執事になったのに、仕えるお姫様がいなきゃ締まらないでしょう?」
……最もこの二つ目の理由は後付けのものだけど、ね。
跪いて、彼女の右手を取る。お姫様は顔を真っ赤にして、ただただ無言で俯いていた。
アイドルの私に対するものとは違う、とても新鮮な、おとなしくて可愛いみのりの反応。……やっぱり、大好きな人の知らない姿は、見ていてとっても楽しい。――もっともっとそんな姿を見ていたくて、私は彼女の手を引いた。
「それじゃあ行きましょうか、お嬢様?」
「……はい……よ、よろしく、おねがいします……!」
2021/06/12 「みのはる100ラリー」83本目
当時の私曰く「欲に正直に書いた」らしいです。
そりゃそうでしょうよ。こんなん欲無して書いてたなら怖すぎるわ。
こうして過去の作品を見返していて思ったのですが、
この頃の私、場面転換と同時に視点主を切り替えていることが多いですね。
それぞれの視点が見れてお得感はありますが、切り替えが急すぎて混乱します……。
今ならもう少し気を遣いますし、正直リメイクしたい気持ちもありますが、
まあ、これはこれで、当時の味ということで。