それは小さなおまじない
「「ゆびきりげんまん♪ うそついたらはりせんぼんのーます♪」」
帰りがけ、そんな子どもたちの声が公園から聞こえてきた。
子どもらしい元気な声がちょっと可愛く思えて、隣のみのりと笑い合う。
「なんだか懐かしいよね、指切りって」
「そうだね。私も小さい頃は友達とやってたな」
「遥ちゃんも?」
「うん。いつでもするわけじゃなかったけど……本当に大切な約束は、指切りで約束するの」
思い出すのは幼馴染みの顔。
子ども同士の約束なんて言った言わないのやり取りが付き物で、それが原因で2人殴り合いの喧嘩に発展したことも何度もある。だから、絶対に破っちゃいけない約束をする時は、指切りで。いつの間にかそれが私たちの暗黙の了解になっていた。
絶対に初詣は一緒に行くこと。絶対に7月中に夏休みの宿題を終わらせること。初めてのライブが終わるまで、絶対に弱音を吐かないこと。……思い出すとちょっとむず痒い、親友との思い出。
「大切な約束かぁ、なんだかかっこいいね!」
「そんなに大したものじゃないよ。……みのりも、指切りとかしてた?」
「うん。わたしはお母さんとよくやってたかなぁ」
「お母さんと?」
「わたし、遥ちゃんを見つけるまでは、学校に行きたくなかったり、お出かけしたくなかったりすることも時々あったから……そういう時はお母さんと指切りで約束するの。『きっと今日は大丈夫だよ』とか、『今日頑張ったら夜はサーモンのお寿司にしようね』とか……」
「そっか。……ごめん、あまり思い出したい話じゃなかったよね」
「ううん、大丈夫! 確かにつらいことも多かったけど、お母さんとの指切りの思い出は、とっても安心する、大好きな思い出だから」
「……それなら、よかった」
無理をしているようには見えなかった。みのりにとっては本当に、お母さんとの優しい思い出なんだと思う。
……安心する、か。確かに杏と指切りした時も、なんとなく心強く感じたっけ。
「不思議だね、指切りって」
「うん。なんだか心がぽかぽかするよね!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「あれ? ここ、新しいお店ができてる!」
「本当だ。なんのお店だろう?」
帰り道、別れ際。通りから少し外れたところに見慣れないお店を見つけた。
遥ちゃんと2人、看板を覗き込んで、
「か……かわいい……!」
「すごい! ペンギンさんケーキ……ねこやうさぎのタイプもあるんだ……!」
動物をモチーフにした一口サイズのケーキが、メニューにずらりと並んでる。どれもとってもかわいくて……気付いたら5分くらい、2人仲良くお店の前で釘付けになってた。
「は、遥ちゃん、これは……!」
「うん、今度皆で来たいね。愛莉と雫も誘って」
「うんうん! ……あれ、でも遥ちゃん、食事制限とかはだいじょうぶ?」
「そう、だから1ヶ月後くらいで予定を組みたいな。それまでにちゃんと調整してくるよ」
「さ、さすが遥ちゃん……! じゃあちょうど終業式の日とかで2人に相談してみよう!」
「そうだね。……それでさ、みのり」
「ん、なぁに?」
……遥ちゃんが、照れくさそうに向けてきたのは、右手の小指。
「えっと、これって」
「うん。えっと、ちょっと懐かしくなっちゃって。……大した約束じゃないけど、こうしたらいつもより楽しみになるかなって……」
「……えへへ、そうだね。じゃあ、指切りしよ!」
差し出された小指に、わたしの小指を絡める。たったそれだけの、簡単なおまじない。
でもそれだけのおまじないが胸がぽかぽかと温かくして……なんだか、とってもくすぐったくて。
「ありがとう、みのり」
指を解いた遥ちゃんが、わたしに笑う。
……子どもみたいな、無邪気な笑顔。こんな遥ちゃんを見るのは初めてだけど……きっとわたしも同じような顔をしてて。なんだかそれが、どうしようもなく、嬉しかった。
2021/06/16 「みのはる100ラリー」85本目
この頃の私、4,5日に1本のペースで作品上げてたんですね。強すぎる……。
まあさらに遡ると、1日に2,3本などという常軌を逸したペースになるのですが……。
指切りって、小さい頃は必ずと言っていいほどやっていたにも関わらず、
結構早い段階で消えてしまう概念な気がします。
中高生はおろか、小学校高学年でもやってたか怪しい。
でもあの小指を結んでするおまじないって、とっても可愛らしくて素敵なんですよね。