初めてのしあわせを、あなたと。

「みのり、こっちだよ」
 周りの人にバレないように、少し声を潜めながら遥ちゃんが手を振る。1月1日、午前1時。普段見慣れたはずの駅前は、新年に湧く人々の熱気で埋め尽くされていた。

「は、遥ちゃん、これバレないかな……?」
「きっと大丈夫。マスクもしてるし、いつもより変装にも力を入れてるしね」
 マスクを少しずらしてそう微笑む遥ちゃんは、ニット帽に黒ぶち眼鏡、そして青いエクステまでつけてる。確かに遥ちゃんがいるって知ってないとわたしでも気付けなさそうなくらいの完璧な変装。……髪の長い遥ちゃんはちょっと新鮮で、なんだか少しドキドキしちゃう。
 かくいうわたしも、慣れないつば付きの帽子とポニーテール。眼鏡とマスクもちゃんとつけてきたから、きっと大丈夫なはず……!

「それじゃあ行こうか、みのり」
「う、うん……!」

 差し出された遥ちゃんの手を掴んで、人混みを抜けていく。
 目指す先は、小さな神社。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「ちょっと駅から遠い神社を選んで来てみたけど、やっぱり人が多いね……」
「まあ、お正月だししょうがないかな」

 大きな神社だと人が多くて気付かれちゃう可能性も上がるし、風邪とかがうつるのもこわい……ってことでちょっと遠くて小さなところを選んだんだけど、それでもやっぱり人が多い。
 ほんのちょっと不安だけど……でも、遥ちゃんが「大丈夫」って言ってるんだから、きっと大丈夫だよね。

「おみくじもあるみたいだけど、お参りの後に引く?」
「えっと、できればお参りの前がいいかも!」
「そっか。みのりがそう言うなら今から引きに行こうか。でも、どうして?」
「その……もし大凶だったりしたら、神様にお願いして変えてもらえるかもしれないから……」

 ――一瞬、遥ちゃんはきょとんとした顔でわたしを見つめて。
 そして、堰を切ったかのように笑い出した。

「あっ、えっと、やっぱり変かな!?」
「あははっ……ううん、いいと思うよ。とってもみのりらしいなって思っただけ」
「そ、そうかな……?」
「うん。じゃあ、みのりの言う通りおみくじから先に引こうか」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 小さなお賽銭箱に100円玉を入れて、箱の中からおみくじを1枚。
 おそるおそる、畳まれたそれを開いて——

「……だ、大吉……?」

 目を擦ってもう一度見てみる。……やっぱり大凶じゃない。ほっぺたをつねってみる。……すごく、すごくいたい……!!

「大丈夫だよみのり。夢じゃないから」
 わたしの手元を覗き込みながら、遥ちゃんが隣で笑う。

「おみくじって……大凶以外にもあるんだ……」
「よかったね、みのり」
「うん! あっ、そうだ遥ちゃんは!?」
「ふふっ、私も大吉だよ」

 遥ちゃんがわたしに見せてくれたおみくじには、ちゃんと大吉の文字。
 し、新年からこんなに運がいいなんて……わたし、今年死んじゃうんじゃ……!?

「でも大吉ってことは、お参りでちゃんとお願い事ができるね」
「えっ?」
「大吉なんだから、『おみくじの運勢を良くしてください!』ってお願いする必要はないでしょ?」
「た、確かに……!」

 ど、どうしよう……他のお願い事なんて考えてなかった……!
 こういう時ってどんなお願い事すればいいのかな!?

「は、遥ちゃん……!」
「みのりのお願い事だからみのりが決めなきゃ駄目だよ? 決まるまで待ってるから、ゆっくり考えてみて」

 遥ちゃんがわたしに向けてくれる、今までの笑顔とは違う優しい顔。今日はいろんな遥ちゃんが見れて、とっても幸せ。もしかしてこれも大吉の効果?

「……そうだ、それじゃあ……」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 財布から5円玉を取り出して、お賽銭箱へ。
 2回おじぎして、パンパンと手を叩いて。目を瞑って、神様にお願い事。

(――――)

 最後にもう一度おじぎをして、遥ちゃんの方に目を向ける。遥ちゃんもちょうどお願い事が終わったみたい。2人で目くばせをして、そそくさと人混みから抜け出した。

「遥ちゃんは、神様にどんなお願い事をしたの?」
「私? 私は、『MORE MORE JUMP!の活動が、もっともっと軌道に乗りますように』ってお願いしたよ」

 そっか、そういうお願い事もあるんだ……! いつも皆のことを考えてる、遥ちゃんらしいお願い事。なんだかその想いだけで、心がぽかぽかしてくるような――。

「みのりは? 結局どんなお願い事にしたの?」
「えっ!? わ、わたしは……その、そんなに大したお願いじゃ……!!」
「そうなの……? まあ、みのりが言いたくないなら無理に聞くことじゃないかな」

 ……わたしのお願い事、それは遥ちゃんみたいに皆のためのお願い事じゃなくて。大吉で舞い上がっちゃったわたしはその勢いのまま、神様にちょっとだけわがままを言った。

(今年も遥ちゃんと、たくさん一緒にいられますように)

 ……やっぱりあんまり良くないよね? 神様に怒られちゃうかな?
 でも今年が大吉なら。今までと違う1年になるなら……昨日までとは違う、少しだけわがままなわたしでも、許されるよね?

「あ、遥ちゃん! あっちで甘酒売ってるよ、一緒に行こう!」
「えっ、ちょっとみのり!?」

 もしかしたらバチが当たっちゃうかもしれないけど……今はもう少しだけ、舞い上がったままでいたいから。
 もっともっと、いろんな遥ちゃんを見るために――思い切って、わたしはわたしから、遥ちゃんの手を取った。

- Afterword -
2021/06/21 「みのはる100ラリー」87本目

6月下旬に初詣の話を上げたのは、単純にお題が「初詣」だったからです。
ラリー企画のお題は原則ランダムで決まるので、しばしばこういうことも起こりますね。

みのりちゃんは運が悪い子ではありますが、きっと遥ちゃんとなら大丈夫。
何より本当に運が悪ければこんな出会いもなかったわけで、
そういう意味で、本当のみのりちゃんはとても運がいい子なんじゃないかと思うのです。