いつだって君は、私の

「み、みのり、これは……?」
「遥ちゃんに似合うかなって思って!」

 仕事帰りのスーツ姿で笑うみのりを前に、私は紙袋を持つ手を震わせていた。

「これ……私が着るの……?」
「うん! ……えっと……やっぱり、だめかな……?」

 ……その困り顔はずるい。そんな顔されたら断れないよ……。ああ、もう分かったよ。私の負け。

「……今回だけだよ」
「うん!! ありがとう、遥ちゃん!!」

 えへへ、楽しみだなぁ……! なんて言って幸せそうに笑うみのりを背にため息をついて、私は彼女の願いを叶えるために自室へ向かった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「お、おまたせ……」

 どうしても見えてしまうふとももをどうにか隠しながら、おずおずとリビングに足を踏み入れる。

 二の腕が露わになる短い袖。腰の下まで入った長いスリット。シニヨンは、流石に私の髪ではちょっと難しかった。
 蒼い、見惚れてしまうほど綺麗なチャイナドレス。自分で着ると理解した時はすごく恥ずかしかったけど……それは、実際に着た今でも変わらない。

「ありがとう……ございました……!!」
「泣きながら拝まないで、みのり。崇めないで、恥ずかしいから!!」

 跪こうとするみのりを必死に引き上げる。一緒に暮らし始めて6年が経った今でもこんなやりとりは変わらない。……変わったのは私のちょろさくらいか。この反応だけで幸せな気持ちになってしまうのだから、本当にすっかりみのりに毒されてしまったなって思う。

「でも、私じゃなくても良かったんじゃない? 23歳の元アイドルなんかに着せるより、それこそ担当してる子たちに衣装で着せてあげた方が魅力的に——」
「そ、そんなことないよ!!」

 ぐわし、と両肩を掴まれる。
 変なスイッチを入れてしまったかもしれない。

「わたしは遥ちゃんに似合うと思って買ってきたの! 実際とってもとーっても似合ってるし! それに遥ちゃんには遥ちゃんの魅力があるの! 胸のシルエットも綺麗な二の腕もふともものチラリズムも、今の遥ちゃんだから出せる魅力なんだよ!!」
「……みのり、私の胸とふとももばっかり見てたってこと?」
「へ? いやいやそんなことは」
「みのりの変態」
「へん……ッ!?」
「若い子と一緒に仕事し始めてから、みのりなんだか言うことがおばさん臭くなったよ」
「おば……さん……っ!!」

 元憧れのアイドル、現人生のパートナーからの連撃は流石に堪えたらしく、床に崩れ落ちてしくしくと泣くみのり。心はちょっと痛むけど、担当の子にセクハラする前にこの言動は直した方がいいと思う。

「……でも、遥ちゃんが一番似合ってるって思ったのは本当だよ」
「はいはい、分かったから」
「嘘じゃないってば! ……本当に、一目見た時に遥ちゃんの顔が浮かんだの。世界で一番、遥ちゃんが似合うって思ったの」

 顔だけ上げて、みのりは微笑む。ちょっとだけ心が揺れてしまう、優しい笑顔。
 ……この6年で、みのりはこんな表情もするようになった。いつもとは違うみのりにどきりとする度、なんだか、ちょっと悔しくなる。

「……はいはい、ありがとう」
「もう、信じてよ遥ちゃ……遥ちゃん!? どうして脱いじゃうの!?」
「ずっと着てたら、私ばっかり見てご飯食べられなくなるでしょ? 今度また着てあげるから、今日はここまで」
「そっかぁ……うん、でも、そうだね。じゃあまた今度で!」

 今度は昔と変わらない笑顔。やっぱりこっちの方が安心する。立て続けにこれだけいろんなみのりが見れたなら……まあ、恥ずかしさに耐えて生足を出した甲斐はあったのかもしれない。

 ……ううん、やっぱりまだ。まだ足りない。
 だから——

「……遥ちゃん、どうしてサラダにブロッコリーが……?」
「子どもたちの見本になるんだから、好き嫌いは無くさなきゃダメだよ、みのり」
「は、遥……ちゃん……!!」

 ——だから、もっとたくさんのみのりを、独り占めさせて。

- Afterword -
2021/08/17 投稿作品

1日だけ、すごい流行った時があったんですよ。桐谷遥チャイナドレス概念。
それこそまだフリート機能が生きていた頃の話です。
その時に生まれたSSです。全体的に頭が悪い。

遥ちゃんのチャイナドレスに関しては本文以上に言うことはないので置いておくとして、
大人になったみのりちゃんがアイドルのマネージャーをしているという設定は、
確かに昔よく考えたなぁと思い出しています。
実際どのくらいの作品に反映されているのかはちょっと覚えていませんが……。
きっとみのりちゃんなら、素敵なマネージャーさんになるのでしょうね。