出発前夜
「ねえ、みのり。今度の3連休、一緒に旅行に行かない?」
「へ?」
「本当は愛莉と雫も誘おうと思ったんだけど、2人は模試があるみたいで」
「そ、それって」
「うん、2人で。……駄目、かな」
「う、ううん、そんなことないよ! わたしも行きたい!」
「そっか、それならよかった。帰ったら行き先とか旅館とかの案も送るから、一緒に決めようね」
「う、うん……!」
……遥ちゃんと旅行。
はるかちゃんと、りょこう。
はるかちゃんと、おとまりのりょこう……!!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
【午後8時】
「いよいよ、明日……!」
お風呂の中でそんなことを考える。明日は7時に遥ちゃんと待ち合わせで、そのあと2人で空港に行って飛行機に乗る。6時には起きないと間に合わないから、今日は早めに寝なくっちゃ。
……遥ちゃんと、お泊り。それもただのお泊りじゃなくて「旅行」だから、しあさって東京に帰ってくるまで、ずっと遥ちゃんと一緒にいることになる。
きっと今までとは比べ物にならないくらい、たくさんの遥ちゃんを見れるんだろうな。浴衣姿の遥ちゃんとか、気持ちよさそうに眠る遥ちゃんとか、もしかしたら寝起きのねぼすけ遥ちゃんも見れるかもしれない。
「……えへへ」
想像するとなんだか口元が緩んじゃって、それがなんだか恥ずかしくて……わたしは、湯船に頭まで潜り込んだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
【午後9時】
着替えは入れた。メイクも大丈夫。トランプも入れた。……あれ? 2人だったらトランプは使わないかな?
スマホで調べた「女子旅必須の持ち物リスト!」っていう記事を横目に、うんうん唸りながらスーツケースを埋めていく。行ってから忘れ物に気付いても大変だし、でもあんまりいっぱい持っていくとおみやげが入らなくなっちゃうし……。
少し悩んで、思い切って遥ちゃんにLINEで相談してみる。まだ9時だし、きっと遥ちゃんも起きてるよね……?
『着替えとお財布があれば他は忘れちゃってもなんとかなるよ。あとはモバイルバッテリーとか、カメラなんかもあるといいかも』
そうだ、カメラ! せっかくこはねちゃんに綺麗な写真の撮り方を教えてもらったんだから、忘れないようにしないと!!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
【午後10時】
これは初めて配信した時の写真。
これは皆で遊びに行った時の写真。
これは、遥ちゃんと2人で、帰りに寄り道をした時の写真。
この1年でスマホの写真もいっぱい増えたなぁ。だんだん容量もなくなってきたから、そろそろ整理しなくっちゃ。
……わたしのスマホに、遥ちゃんの写真がある。それもアイドルとしてじゃなくて、1人の友達としての遥ちゃんが。
そして、明日になったらもっとたくさんの遥ちゃんが増えるんだろうな。わたしの知らない遥ちゃんが、もっと、もっと。
「……へへ……うへへ……」
なんだかすごく不思議な気持ちになって、わたしは変な声を出しながらゴロゴロとベッドの上を転がり回った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
【午後11時】
「あっ……これ、初めて遥ちゃんのライブに行った時の……!」
お部屋の片付けをしていたら、初めて自分で作ったうちわが出てきた。
遥ちゃんに出会って初めてのライブで……上手くいかなくて、何度も何度も作り直したんだったっけ。
『遥ちゃんウインクして♡』
こ、こうして見てみるとちょっと恥ずかしいかも……。あの時はステージから遠い席だったから遥ちゃんには届かなかったけど、本当にウインクしてもらえてたらきっと嬉しさで倒れちゃってたから、それはそれでよかったのかも。
今の遥ちゃんに見せたら、きっとウインクしてくれるんだろうな。でも旅行にアイドルうちわを持っていくのはさすがに変だし……。
…………ん?旅行……?
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
【午前0時】
「お、終わらないよ~!!」
なんでお部屋の片付けなんて始めちゃったんだろう、わたしのばかー!!
明日は早いから早く寝なきゃいけないのに、これじゃあいつまでたっても布団に入れないよ!!
「あ、あれ!? 着替えがない!!」
どうして!? 最初に用意してベッドの上に置いてたはずなのに……はっ! そうだ、写真を見返す時に邪魔だから下におろして、その後片付けの時にタンスにしまっちゃったんだ!!
も、もう一回出してこないと……! あれ、そういえばカメラってどこに置いたっけ!? というかもう0時45分!?
こ、これじゃあいつまでたっても寝られないよ~!!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
【午前2時】
……準備を終わらせても、結局寝れませんでした……。
あれからなんとか準備を終わらせて、1時半には布団に入ったけど……なんだかドキドキして目が冴えちゃって全然寝れない!
は、早く寝なくちゃいけないのに……! 寝なきゃって思えば思うほど余計なことばっかり考えちゃって……!!
と、とりあえず一旦別のことを……そうだ、こはねちゃんからオススメしてもらった動物の動画を見て一度落ち着こう……!
……あ、この動画の子もかわいいなぁ……次はこれにしよっと。
……あれ? この人たち、動物をモチーフにしたアイドルなんだ。かわいいなぁ。何曲か聴いてみようっと。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
【午前7時】
「……………………」
……結局、一睡もできませんでした。
動物の動画を見て落ち着くはずが、いつの間にかアイドルの動画をはしごしていて、気付いたらASRUNのライブ映像を見返していました。
こ、こんなはずじゃなかったのに……。なんとか待ち合わせに間に合うように来れたけど、頭も身体もふらふらだし、きっと目の下にはクマができてるし、とても今から旅行に行く人には見えないと思う。
せっかく遥ちゃんとの旅行なんだから、一番ちゃんとしたわたしで来たかったのに……なんであんなことばっかりしちゃったんだろう……わたしのばか……。
……そういえば、遥ちゃんはどうしたんだろう。いつもならわたしより早く待ち合わせ場所に着いてるはずなのに……。そんなことを考えていたら、
「お……お待たせ……みのり……」
ふらふらとした足取りで、目の下にクマを作った遥ちゃんが現れた。
「は、遥ちゃん!? どうしたの!?」
「うん、本当に言うのも恥ずかしいんだけど……みのりと旅行って考えるとなんだかそわそわしちゃって全然準備が終わらなくて……布団に入っても寝れないから試しに私たちの配信を見返してたら、全部一気見しちゃって朝になってて…………」
いつもより白い顔に、ほんの少しだけ朱色がかかる。
……初めて見る、「わたしの知らない遥ちゃん」がそこにいた。
「……ふふふ」
「や、やっぱり子供っぽいよね? 高校生にもなって旅行が楽しみで寝れないなんて……」
「ううん、そんなことないよ! わたしも昨日全然寝れなくて……!!」
「みのりも? そっか、私だけじゃなかったんだね」
思い描いてたスタートではないけど……きっと、素敵な旅行になると思う。
ふにゃりと笑う遥ちゃんを見て、回らないねぼすけ頭でそんなことを考えた。
――その後仲良く電車で寝ちゃって、飛行機に乗り遅れかけたことは、2人だけのひみつ。
2021/09/05 「みのはる100ラリー」91本目
桐谷遥はねぇ!! 高校生なんですよ!!
どれだけ芸能界で過ごしてきてたって、それでも齢16、17の女の子なんですよ!!
それをやれイケメンだやれスパダリと持ち上げて持て囃して!!!!
駄目とは言わんがそればっかりじゃ桐谷遥の魅力は引き出しきれないって!!!!
ぼかぁそう思うわけですよ!!!!!!!!
……とまあ別にそんなことを考えてたわけではありませんが、
ちょっとお茶目で可愛いみのはるです。
イベントが楽しみで寝不足になっちゃうっていうのは、時代や年代を問わずあるあるですよね。