猫と嫉妬と、口づけと

「私たちも、飼ってみてもいいかもしれないね」

 愛莉から送られてきた猫の動画をみのりと観ながら、そんなことを思いついた。
 ペンギンほどではないけど、私もみのりも猫は好きだし。こうして動画を見ているだけでもすごく癒されるし。それに、お互い仕事にも同棲にも慣れてきた今、そろそろ新しい家族を迎えてもいいのかもしれない。
 もちろん考えることはあるけど、動物のお世話が好きなみのりはきっと喜んでくれるだろうし、まずは話すだけ話してみてもいいかな。……と思って、話を切り出してみたんだけど……。

「か、飼うのは……大変じゃないかな……? ほら、やっぱりごはんとかもお金がかかっちゃうし……」

 ……想像していたよりも、みのりの歯切れが悪い。
 この反応はちょっと予想外だった。

「お金は確かにかかるけど……今もある程度余裕はあるわけだし、そんなに気にしなくて良いんじゃないかな」
「2人とも家を空けちゃうこともあるし……」
「飼う前に相談は必要だけど、実家に預けたりとかやりようはあると思うよ。杏たちも近くに住んでるわけだし」
「あ、愛莉ちゃんがお家に来れなくなっちゃうかも……!!」
「……みのり。もしかして、猫苦手だった?」

 愛莉が好きだし私もよく動画を観るから、無理して合わせてくれていたのかもしれない。みのりは動物はなんでも好きだと思い込んでいたけれど、もしそうだとしたら本当に申し訳ない。

「う、ううん! ねこちゃんは大好きだよ! とっても可愛いし!!」
「えっ? じゃあどうして……猫アレルギーとか?」
「アレルギーはないかな……」
「じゃあ、飼うのに自信がないとか?」
「それは、ちょっとだけあるかも……」

 やっぱり、どうにも歯切れが悪い。
 ……もしかしたら、話しにくいことなのかもしれないけど。

「……みのり。できれば、みのりの思ってることをちゃんと教えてほしいな」
「えっ! ……で、でも、えっと」
「大丈夫だよ。絶対に笑わないから」
「……本当に?」
「もちろん。勇気を出して言ってくれたことなら、どんなことでもみのりを笑ったりしないよ」

 我ながらずるい言い方だな、とは思った。でもみのりの逃げ道を塞いででも、もっとみのりのことを、みのりの想いを知りたいと思ったのも事実だった。

「……え、えっと」

 ほっぺたを赤くしながら、みのりが消え入りそうな声で呟く。

「ね、ねこちゃんを飼っちゃったら……その……遥ちゃんとの時間も、取られちゃうかなって……思いまして…………」

 ……え?
 それは、つまり……。

「猫に嫉妬しちゃうかもしれないから、猫は飼いたくないってこと?」
「しっ……!? いや、そんなねこちゃんに嫉妬なんてしな……う、うん……」
「……ふふっ」
「は、遥ちゃん!! 笑わないでって言ったのに〜!!」
「ごめんごめん。みのりがあんまり可愛いから、つい。うん、でもそうだね」

 ぷんすか怒るみのりをそっと抱きしめて、やさしく頭を撫でてあげる。
 それだけで顔を真っ赤にして静かになっちゃうのも、本当に可愛いと思う。

「は、はる、遥ちゃん……!!」
「私もこの時間が減っちゃうのは寂しいし、猫の話はまた今度考え直そうか」

 今は、このねこちゃんとの時間を大切にしたいしね。
 言葉にならない悲鳴を上げる彼女の額に、私はそっと唇を落とした。

- Afterword -
2021/10/03 「みのはる100ラリー」93本目

誰も彼もはお猫様がかわいいだのなんのと持ち上げてばっかりだが、
世の中にはもっともっと可愛いものがある!!!!
そんな感じのお話です。書いたときはそんなこと考えてませんでしたが。

「そこに嫉妬するの!?」みたいな存在に嫉妬しちゃう子って可愛いですよね。
相手の兄弟姉妹だったり、ぬいぐるみだったり、それこそペットだったり。
そういった推しが見たいという欲望から出てきたタイプの作品です、これは。