イリーガル・アクトレス

「ふわとろオムライスと、あとミルクティーください」
「じゃあ、私はホットサンドとホットコーヒーで」
「かしこまりました! 少々お待ちください!」

 ツインテールのメイドさんが、ぺこりと頭を下げて去っていく。……みのりの姿は、まだ見つけられていない。

 宮益坂女子学園文化祭。クラスのシフトが終わった私は、みのりたち1-Aのメイド喫茶に足を運んでいた。
 お店の中は常に満席。窓の隙間から見える長蛇の列が、そのクオリティの高さを物語っている。

「それにしても……もっとありきたりなのを想像してたんだけど、いろんなメイドさんがいるんだね」

 軽くお店の中を見渡しながら、杏が呟く。

「うん。一人一人に合わせて衣装や設定を決めてるって感じだよね。これは人気があるのも分かるな」
「あー、今になってこはねを見れないのが悲しくなってきた! どんな格好だったのかな……」

 ちなみに、宮女生じゃない杏がここにいる理由は単純。『どうしてもこはねに会いたいの!!』と泣き付かれたから、仕方なく私の従姉妹ということにしてあげたのだ。
 ただ、残念ながらこの時間の小豆沢さんは厨房担当だったらしい。シフト後に一緒に回る約束はできたらしいけど、今はこうしてタイミングの悪さを嘆いている。
 ……いつものストリート風の私服とは違う、シックで落ち着いたコーデは、私の評判を気遣ってのことなのだろう。

「確かに、これだけクオリティが高いと気になるよね。みのりに写真お願いしよっか」
「本当!?」
「その代わりここのお代は杏の奢りね」
「うっ……。あーあ、この前みのりちゃんと合った時にLINE交換しとけばよかったなー!」
「駄目だよ。そういうのはちゃんと事務所通してもらわないと」
「フリーのアイドルが何言ってんだか」

 ……正直に言うと、少しだけ浮かれてしまってる私がいる。
 特殊な状況とはいえ、またこうして杏と学校で話せる日が来るとは思いもしなかった。それは私がみのりに出会っていなければ、杏が小豆沢さんに出会っていなければきっと訪れなかったことで……なんだかちょっと運命じみたものを感じて、思わずにやけてしまいそうになる。
 ……それに……。

「ていうか、これだけクオリティ高かったらみのりちゃんもすごいんじゃない? 話とか聞いてないの?」
「それが、誰も教えてくれないんだよね。みのりは聞こうとすると逃げちゃうし、他の皆は『すごかったよ』としか言ってくれないし……」

 そう。この時間は、みのりがホールの担当なのだ。
 セカイでいろいろな衣装のみのりは見慣れてるし、バイト先に遊びに行ったこともあるから最初はあまり意識してなかったんだけど……模擬店とは思えないこのこだわりを見ていると、嫌でも期待が高まってしまう。
 みのりは、どんなメイドさんなんだろう? 猫耳とか、みのりなら犬耳をつけたりしてるかもしれない。転んだら危ないし、あまり丈の長すぎるスカートは履いてほしくないな。シンプルにミニスカートでフリルの多いタイプがみのりには似合うのかも。でもあんまり短いとみのりのイメージには合わないかもしれないし……

「遥、顔にやけてるよ」
「えっ、嘘……!?」
「まあ嘘だけど……痛ッ!?」

 テーブルクロスで足元が見えないのをいいことに、杏のすねに蹴りを入れる。

「……今のは図星だった遥が悪くない……?」
「うるさい。からかってくるんなら写真お願いするのやめるからね?」
「待って、それだけは許して! ごめん、謝るから!!」
「まあ、いいけど。……でも、本当にみのり、どんな感じになってるのかな」
「んー、逆に想像つかないよね。みのりちゃん、なんだかんだ何でも似合いそうな気がするし」
「うん。考えれば考えるほど分からないというか……」
「案外直球で王道な感じかもよ? 猫耳つけて、フリルいっぱいで!」
「流石にありきたりすぎない?」
「でも、見てみたくない?」
「……」

 見てみたくないと言ったら、嘘になる。頑張り屋のみのりのことだから、きっと可愛いんだと思う。ただなんとなく頭の中のみのりに申し訳ない気がした。あとは、純粋にさっきから私の脳内を的確に言い当ててくる幼馴染に腹が立ってきたと言うものもある。
 とりあえずもう一度蹴ろう。そう決めて静かに右足を振りかぶった時……とても、聞きなれた声がした。

「お待たせいたしました。ふわとろオムライスとミルクティーになります」


 ……見慣れた少女が、そこにいるはずだった。

 クラシカルで、気品を感じるメイド服だった。そのままお屋敷に行っても働けるような、そんな上品な佇まいだった。ゆらりと舞うロングスカートは可愛さよりも美しさが前面に出ていて……思わず、見惚れてしまった。
 長い髪だった。きっとエクステを使っているのであろうその髪は、けれど高校生の出し物とは思えないくらい自然に纏まっていて。その衣装と相まって、一瞬大人と見紛う程だった。初めて見るその優しい灰色の瞳に吸い寄せられて、目が逸らせない。

 ……私の知らない花里みのりが、そこにいた。


「……お嬢様、大丈夫ですか?」

 鈴の鳴るような声。聞き慣れたはずの音なのに、その憂いの混じる声が鼓膜を揺さぶって離れない。
 頭の中をたくさんの情報が流れてく。たくさんの言葉が一瞬だけ浮かんでは消えていく。真っ白になっていく脳内で、たった一つ残った言葉を、思わずそのまま呟いた。

「……綺麗……」

 ……あまりよく覚えてないけれど、自分でも情けない声だったと思う。
 きっと時間にしたら数秒の、感覚としては一生にも近い沈黙。だんだん恥ずかしさが込み上げてきて、思わず席を立ちそうになったその時。

「き、きれ……きれっ……!?」

 ぼんっ、という音が聞こえそうなくらい、彼女の顔が一気に真っ赤になった。私に負けず劣らずの情けない声だった。突然出てきたいつもの大好きなみのりに、いよいよ脳内が限界を叫ぶ。

「あ、え……え……?」
「あっ、あの、その……あっ! あんちゃ……お嬢様! ホットドッグすぐに持ってきますね!!」

 そうしてとてとてと去っていくみのりを、呆然と見つめる。
 ……なんだか足が震えてきた。ただみのりに会っただけなのに、こんなに見惚れちゃうなんて、動揺しちゃうなんて思ってもいなかった。私の知らない、綺麗なみのり。絵画からそのまま出てきたかのようなあの姿が網膜に焼き付いて、私の呼吸を浅くする。

 ……本当に、恥ずかしくて、情けないな……。
 でも本当に、「綺麗」って言葉しか、出てこなかったんだ。

「……私、頼んだのホットサンドなんだけど……」

 そう呟く杏の声が遠いのは、きっと声量のせいだけじゃない。
 震える手で一口掬ったオムライスは、全く味を感じられなかった。

- Afterword -
2021/10/09 「prsk妄想限界戦線01」参加作品

妄想限界戦線への参加作品です。
この企画は24時間でお題に沿った創作をする企画なのですが、
当時の私は別企画の対応などもあり、実際に使えた時間はこの半分以下という状況でした。
忙しい中ではよく頑張った方だと思います。

みのりちゃんは何でも似合うので、ぜひいろいろな格好をしてみてほしいです。
原作でもいろいろ着てくれているのですが、まだまだ足りない。
オタクの欲求は留まるところを知らない。
この前私のネタ帳を漁ってて見つけたのですが、例えばシスター服とかどうですか?
絶対また違う魅力を引き出せるかと思うのですが。どうですかカラフルパレットさん。