live.

 4月14日。
 わたしの誕生日。

 なんだかとても不思議な一日だった。
 朝教室に入った瞬間クラスの皆から盛大にお祝いされて、こはねちゃんや志歩ちゃんは勿論、顔も名前も知らない他のクラスの子にも、果ては先生たちからもたくさんのプレゼントを貰って……授業が終わって屋上に上がる頃には、大きなダンボールをもらって抱えていかないと持ち運べないくらいになっていた。
 屋上で配信を始めてからも、今度は想像もつかない程たくさんのお祝いをコメントで言ってもらって……配信中も、配信が終わった後も、ふわふわした感覚がいつまで経っても抜けなかった。

 ……そして、今。

「プレゼントは私だよ、みのり」

 遥ちゃんの口から飛び出した言葉は、今日一番意味の分からないものだった。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「えっと……それって、どういう……!?」

 突然の発言でパニックになるわたし。「プレゼントは私」だなんて、フィクションの世界でしか聞いたことがない。
 暫くの沈黙で、思考はどんどん飛躍していく。えっとえっと、プレゼントは遥ちゃんってことは、プレゼントは遥ちゃんってことで、つまり今からわたしは遥ちゃんに何してもいいってこと……!?

「ひゃ、ひゃるかひゃん」
「……ふふっ、あはは! 緊張しすぎだよ、みのり!」

 堪えきれなくなったように吹き出す遥ちゃんを見て、飛躍した思考の数々に思わず顔が真っ赤になる。なんとか遥ちゃんに弁明したかったけど、この数瞬の妄想を全部胸を張って遥ちゃんに教えられるかと言われるとぜっったいに無理なので、わたしはただ「ぴぇぇ……」と情けない声をあげるしかなかった。

「ごめんね、ちょっといじわるしちゃった。……正確に言うとね、みのりに何をプレゼントするか、みのりと一緒に決めたいんだ」
「わたしと?」
「うん。いくつか候補はあったんだけど、どれもしっくりこなくって……だから今みのりが一番欲しいものを、みのりと一緒に探してプレゼントできたらって思ったの」
「なるほど……」

 今、一番欲しいもの……あんまり思いつかない。いろんな人から数えきれないくらいプレゼントをもらったし、何より遥ちゃんからもらえるものなら道端の石ころでも、消しゴムの残りかすでも飛び跳ねて喜んじゃうと思うから……「一番」って言われると逆に迷ってしまう。

「ものじゃなくて、一緒に行きたい場所とかでもいいよ。気になるお店があれば付き合うし、やりたいことがあれば一緒にできるよ」

 今日の私はみのりのプレゼントだからね。
 そう言う遥ちゃんはどこか得意気にも見えて、なんだかとっても可愛かった。

 ……それにしても、どうしよう? 遥ちゃんの優しさのせいでかえって選択肢が増えてしまった。
 欲しいものといえば、最近デビューしたアイドルのCDとか? でもわざわざ遥ちゃんにプレゼントしてもらうのはなんだか違う気がする。
 おすすめのカフェに連れてってもらう? うぅん……それは誕生日じゃなくてもいい気がする。
 じゃあじゃあ、遥ちゃんにメイドさんの衣装を着てもらうとか……いやダメダメ!! そんな遥ちゃん、見ちゃったら気絶しちゃうかも!!
 うぅぅ……せっかく遥ちゃんがああ言ってくれるのに、全然決まらないよ〜!!

「みのり……?」
「あっ、ごめんね遥ちゃん! いざそう言われるとなかなかいいのが思いつかなくて……」

 ……何気なく言ってるけど、遥ちゃんにやってもらうことがないって、すごく贅沢な悩みな気がする。
 ほんのちょっと前までは雲の上の存在だった遥ちゃんが今は日常の一部になっていて、わたしはそんな今でも遥ちゃんから絶えず希望を貰ってる。

「……そうだ」

 遥ちゃんにしてほしいこと、あったかも。
 ……いやでもこれはさすがに贅沢すぎるのでは!? こんなことお願いしたら昔のわたしに刺されちゃうといいますか!!

「決まった? みのり」
「いや、えっと、これは流石によくない気が……」
「大丈夫だよみのり。覚悟はできてるから」
「か、覚悟っ!?」

 夕日にきらめくコバルトブルーの瞳はとても綺麗で、その眼に見つめられて、わたしは何も言い訳ができなくなる。
 ごめんね、昔のわたし……。心の中で必死に謝り倒して、わたしは今世紀最大の「お願い」を口にした。

「その……遥ちゃんのステージが、見たいなって……」

「……それだけ?」

 緊張と恥ずかしさでいっぱいになるわたしとは対照的に、一瞬目を丸くする遥ちゃん。

「えっと、ステージってなるとカラオケとかだと難しいだろうし、今からやるならセカイに」
「あっ、いや……セカイはミクちゃんたちがいるから……!!」
「……ミクたちがいると、駄目なの?」

 もっともな疑問だと思う。きっとセカイのステージを借りた方が演出も衣装も揃ってるし、とっても素敵なライブが観れると思う。……でも……その、わがままが過ぎるとは分かってるけど…………。

「……わたしだけ……」
「え?」
「わたしだけのために……歌ってほしいなぁ……なんて……」

 ……沈黙。数秒間の静寂が、わたしの強欲さと節操のなさをどんどん突きつけてきて、今すぐ謝り倒してこの屋上から飛び降りたい衝動に駆られる。
 遥ちゃんはしばらく口をぽかんと開けていて……そして、心底嬉しそうに笑った。

「なるほど。それじゃあ、ここでやるしかないかな」
「や、やっぱりわがままだよね!? ごめんなさい誕生日だからって調子に乗ってこんなことを!!」
「そんなことないよ。……それに、みのりはあの時私のためにライブをしてくれたのに、私がしないのも貰いっぱなしで良くないしね」

 軽くストレッチをして、静かに息を吐く遥ちゃん。開かれた紺碧の瞳が空気を張り詰めさせて、日常と化した屋上を非日常へと落とし込んだ。
 衣装はいつもの練習着。照明は2人を微かに照らす夕暮れだけ。それでも心は高鳴っていて、自分の息づかいすらもうるさく感じてしまう程、この空間は確かに「ステージ」だった。

「それじゃあ、歌うね。他でもない、あなたのために」

 憧れも、愛しさも、全部全部詰め込まれて。
 2人きりのプレゼントは、静かに幕を開けた。

- Afterword -
2022/04/14 投稿作品

花里みのり誕生祭に合わせて投稿した作品です。
……以前「『生誕』は死んだ人に対して使う言葉だから、推しの誕生日を『生誕祭』とするのは良くない」
という言説を見かけてから、なんとなく「誕生祭」という言葉を使ってしまうのですが、
調べてみたところ、実際そこまで厳密な差はないみたいですね。
「生誕」という言葉は人に対して使われ、主に偉人に対して用いられる、といった程度のものみたいです。
偉人は既に亡くなっていることが多いため、ここが転じて上述のような言説に繋がっていったのでしょうか?
いずれにしても花里みのりは偉大な子なので、「花里みのり生誕祭」でも問題はなさそうです。
正直「生誕祭」より「誕生祭」の方がかっこいいですし。

閑話休題。

2人きりのライブってシチュエーション、とってもいいですよね。もっと増えてほしいです。
確かにアイドルは「皆のための存在」であるべきなのかもしれませんが……。
たまには、特にこういう特別な日くらいは、「誰かのための存在」になってもいいんじゃないかと思うのです。