晴れ間のペンギン

 雨だ。
 まさしく雨と呼ぶにふさわしい程の土砂降りだった。雨粒が絶えず窓ガラスを叩き、教室から辛うじて見えるグラウンドはそのほとんどを水溜りに侵略されている。

 雨だ。
 梅雨時だし、それはまあ降るだろう。でもそれにしたってここまでやることはないと思う。終礼の終わった教室で、この後私に訪れるであろう未来を想像して、少しだけ気が重くなる。

 ……雨だ。
 どちらかというと、この雨が明日も続くということの方が憂鬱だった。この調子じゃ屋上は間違いなく使えない。明日の配信は新企画も用意していたのに……梅雨の間配信ができないとなると、次の配信は1ヶ月後とかになってしまう。

「……みのり、張り切ってたのにな」

 ……考えていてもしょうがない。雨が止まないのが確定なら、一刻も早く家に帰ることが重要だろう。
 そうだ。せっかくなら楽しいことを考えよう。一目惚れして買ったペンギンくん傘の初陣と考えれば、これほど完璧なシチュエーションはない。ちょっと風が強い部分は、ペンギンくんのポテンシャルと私の頑張りで乗り切るとして——

「……あれ?」

 1-Aの教室から、見慣れた声が聞こえてくる。

「……みのり?」
「あっ、遥ちゃん!」
「こんにちは、遥ちゃん。今から帰るの?」

 窓から顔を出すと、予想通りの2人——みのりとこはねが笑顔で出迎えてくれた。
 くっつけられた2人の机の上には、ティッシュ箱とサインペン、輪ゴムにたこ糸と……

「……てるてる坊主?」
「うん! 明日の配信、ちゃんとできるといいなって思って!」
「私も明日イベントがあるから、みのりちゃんと一緒に作ってたんだ」

 机の隅には山のように積み上げられたてるてる坊主たちの姿。
 確かに、憂鬱になってるよりは何か行動をした方がいいのかもしれない。そこでてるてる坊主を思いつくのがとってもみのりらしくて、ちょっとだけ笑いが込み上げてきた。

「うん。それなら、私も混ぜてもらおうかな」
「ほんと!? ありがとう遥ちゃん!」

 そうしてみのりから材料をもらって作り始めてみたけど……これが、なかなか難しい。

「頭でっかちになっちゃった……」
「ティッシュ2枚くらいで作るとちょうどいいよ!」

「なんだか顔がごつごつしてる……」
「力を入れないで優しく丸めると綺麗になるよ」

「インクが滲んで顔が変に……!」
「先に机で描いてから作ってあげるとうまく描けるよ!」

 だんだん作る手にも熱が入ってくる。こんなに苦戦したからには至高のてるてる坊主を、私の理想のてるてる坊主を作りたい。
 みのりとこはねからアドバイスをもらいながら、トライアンドエラーを繰り返して、そして——

「——できた」

 遂に成し遂げた。
 まるまるな顔、少しシュッとした体、くりくりした目と可愛いほっぺた、そして何より……チャーミングなくちばし。

「すごい! ペンギンさんのてるてる坊主だ〜! かわいい〜!!」
「すごいね遥ちゃん、こんなに可愛く作れるなんて……!!」
「2人のアドバイスのおかげだよ。本当にありがとう」

 改めて手元のペンギンと、その過程で生まれたたくさんの試作品に目を向ける。クオリティの差はあれどどれも愛着いっぱいの可愛いてるてる坊主たちだ。
 最初は「何も行動しないよりは」の気持ちで手伝ってみたけど……こうして力作たちを並べてみると、なんだか本当に雨雲なんて吹き飛ばせるような気がしてくる。

「……頑張ってね、みんな」

 窓際に吊るしたてるてる坊主たちに3人でパワーを送りながら、そんなことを呟いた。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 ——結局、次の日はどうなったのか?

 もう時間がないから詳細は省くけれど……私があのペンギンの首を切らずに済んだことだけは、最後にこうして記しておこうと思う。

- Afterword -
2022/06/01 「モモジャン版深夜の一本勝負」参加作品

いわゆる「ワンドロ・ワンライ」への参加作品となります。
普段はあまり参加しないのですが、少しだけ余裕があったので参加しました。

お題が「雨」だったので雨の日をテーマにした作品にしたのですが、
夕暮れ時が好きなのもあってか、あんまり自分の中で「雨」の場面が浮かんでくることは少ない気がします。
雨自体は嫌いじゃないので、こういうシーンもいろいろ書いてみたいものですね。
夕立とか雨宿りとか……素敵な雨の概念もたくさんありますから。