暗闇の灰は罪の色
「これを、3階の空き教室まで運べばいいんですか?」
「そう! ごめんね桐谷さん。ゆっくりで大丈夫だし、他の子巻き込んでもいいから!」
「はい、分かりました」
放課後。日直の私は担任の先生に頼まれて、ちょっとだけ残業をすることになった。
目の前にあるのは教材の入った段ボールが4つ。……一気に持っていくにはちょっと重い。まあ今日は練習もないし、頑張って往復するのが確実かな……。
なんて考えていると、後ろから聞き慣れた声。
「遥ちゃん?」
「……みのり?」
「どうしたの?」
「ちょっとお使いを頼まれちゃって。これを3階まで運ばないといけないんだけど」
「えっ、これ全部!? 一人じゃ大変だよ、わたし手伝うよ!?」
「え、本当に?」
「うん! 今日はこの後予定もないし……」
「それじゃあお願いしようかな。……本当のこと言うと、ちょっと大変だなって思ってたから……」
うん、任せて!
そう言ったやる気に満ち溢れた顔が……段ボールを持った瞬間凍り付く。
「……みのり、大丈夫?」
「だ、だい、じょうぶ……! これくらいなら、いけます!」
「そっか……。きつそうだったら言ってね?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「はぁ……はぁ……」
「お疲れ、みのり」
空き教室。倉庫と化したその部屋は立ち並ぶ棚によって窓を塞がれていて……ドア窓から差し込む廊下の明かりだけが、かろうじてこの場所を暗闇から守っていた。
「暗いから、足元気を付けてね」
「うん……えっと、あの辺に置いとけばいいかな?」
「そうだね、あそこにしようか」
いろんなものが乱雑に置かれたここは、少し足元の状態が悪い。
決して狭いというわけではないのがせめての救いだろうか。
「よいしょ、っと」
「よし、これであと2つ」
「そうだね、がんばるぞー!」
そうして入口へ引き返そうとした刹那。
「ひゃっ……!?」
足元の何かを踏んだみのりが、私の方に倒れ掛かってきた。
「えっ……きゃっ!?」
どうすることもできず巻き込まれた私も、一緒に床に倒れ込む。
幸いそこまで衝撃はない、うまく受け身がとれたみたいだった。
……おかしくなったのは、その後から。
「「あっ……」」
私に覆い被さるように倒れ込んだ、そんなみのりと目が合った。
こんなにみのりの顔を近くで見たのは初めてで。私をじっと見つめるみのりの目が、私と同じ気持ちになっていることを雄弁に語る。
少し早まる2人の吐息が私たちを狂わせて、上気した顔に、その唇に、触れて、重ねて――
そこで、我に返った。
「……っ! えっと、みのり、怪我とかない!?」
「えっ……う、うん、大丈夫……!」
邪な考えを振り払うように、みのりを待って立ち上がる。
……私今、みのりに、ひどいことしようとした……。
「……残りも早く運んじゃおうか」
「そ、そうだね…………」
今のことをなかったことにするように、2人でそそくさと教室を出る。
早打つ心臓の鼓動に気付かれていないか、それだけが今は気がかりだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
さっきと同じ道。さっきと同じ荷物。
違うことは、私たちの間に会話がないことだけ。
「……」
「……」
気まずくて、そして恥ずかしくてみのりを直視できない。
目を合わせればあの目を思い出してしまう気がして。声を聞けばあの吐息を思い出してしまう気がして。
……きっと、明日になればきっと元通り。だから今は黙っていよう。
そんな甘えた考えをする私が嫌になる。傷つけようとしたくせに、汚そうとしたくせに無責任なことを。せめてちゃんと謝らなきゃいけないのに。
そんなことをぐるぐる考えているうちに、2度目の空き教室。
「……ごめんねみのり。手伝ってくれてありがとう」
「……うん」
ぎこちない会話が苦しい。けれど、今の私にこの空気をなんとかする術はない。
罪悪感に押しつぶされながら、重い荷物を教室に下ろす。
「……ねえ、みのり、帰りにクレープでも」
「遥ちゃん」
どこか震えた声だった。
それは泣きそうな声に聞こえた。心臓が潰されるような思いだった。
私の罪を、突き付けられた気分だった。
「わたし、遥ちゃんが私のことを想って、何もしないでいてくれるのは分かるんだ。……でも」
……違う。
みのりは傷ついてなんかいない。
そして、この心臓の鼓動だって……。
「……でも……わたしもう、『いい子』じゃいられないの」
かちゃり、と鍵の閉まる音が響く。
鍵を閉め振り返るみのりの目は、さっきと同じ深い灰色。
……私たちは今度こそ、何かを間違えてしまうらしい。
2021/04/25 「prsk2H創作デスマッチ#04」参加作品
2Hデスマッチへの投稿作品です。
これは2時間というごく僅かな時間の中でどうにか作品を絞り出し投稿する企画となっております。
4回もやるなそんな企画を。
過去ツイートを見たところこの時は体調が極めて悪かったみたいなのですが、
少しマシになったタイミングで気合で書き上げたようです。微かに記憶もあります。
作品にも体調の悪さがモロに反映されていますよね。
心が沈んでいる時は、出力される物語も不穏・不安定なものになりがちです。