フォーチュンドールと内緒話

「はい、遥。確認してもらったけど問題はないってさ」
「そっか、ありがとう杏。これお礼。その先輩に渡しておいてほしいな」
 杏ちゃんが帰ってくるや否やそうやって紙袋をやりとりする2人を、わたしとこはねちゃんはぼんやり眺めていた。

「遥ちゃん、それ何?」
「そういえばみのりにはまだ言ってなかったっけ。ふふっ、見たらきっとびっくりするよ」
 そう言って遥ちゃんが紙袋から取り出したのは……手のひらサイズの、わたしたちのぬいぐるみ。
 わたしと遥ちゃん、愛莉ちゃんに雫ちゃん。4人がそれぞれちょこんと座っている。フェルトで作られたぬいぐるみだけど、とってもわたしたちにそっくりで、わたしが青いペンライトを持ってたり遥ちゃんの膝の上にペンギンが乗っていたり、細かいところまで本当によくできてる……。
「か、かわいい……!!」
「うん、本当によくできてるよね。一応盗聴器とかが仕掛けられてる可能性もあるから杏にお願いして詳しい人に調べてもらったんだけど、それも大丈夫みたい」
 そうして手の上にぬいぐるみが乗せられる。にっこり笑った、わたしの小さなぬいぐるみ。わたしとは思えないくらい本当に可愛くて……これを作ってくれた子からは、わたしもこのくらい可愛く見えてるのかな?なんて思うとちょっと恥ずかしくなってきた。

 ——ふと視線を前に戻すと、とても優しい表情で自分のぬいぐるみを見つめる遥ちゃんの姿。
 遥ちゃんのぬいぐるみは可愛い、けれど遥ちゃんと同じ綺麗な目をしていて……。

「……ねえ遥ちゃん」
「どうしたの、みのり?」
「もしよかったら、わたしのぬいぐるみと遥ちゃんのぬいぐるみを交換したいなって思って……」
「えっ?」
「だめ、かな?」
「……ううん、大丈夫だよ。交換しようか」
 そして小さなわたしは遥ちゃんの元に旅立って、わたしの手元に小さな遥ちゃんがやってくる。
 青い、綺麗な目と目を合わせて。その小さな身体を、わたしはそっと抱きしめた。


*****


 寝室のベッドに寝転んで、遥ちゃんのぬいぐるみと向き合う。
 「ぬいぐるみを交換したい」なんて言ったのは、別にわたしのぬいぐるみが気に入らなかったからでも、いつでも遥ちゃんに手元にいてほしかったからでもない。
 とてもよくできたぬいぐるみ。遥ちゃんによく似たこの子になら、ちゃんと伝えられると思ったから。

「えっと、その……遥ちゃん、駅前に素敵なカフェを見つけたんだけど……!」
 うぅ……なんかぎこちない。もうちょっと自然に言いたいな……。

 遥ちゃんとお付き合いを始めてから、こういうデートのお誘いはいつも遥ちゃんの方からだった。それまでは週末遊びにいく約束とかもちゃんとわたしからできたはずなのに、いざ「デート」ってなるとなんだか特別な感じがして緊張して……結局、遥ちゃんが誘ってくれるのを待ってしまう。
 でもそれじゃダメなんだ。いつも遥ちゃんに頼りっぱなしはよくないから、たまにはわたしから、遥ちゃんを「デート」に誘わなきゃ!

 だからね、ぬいぐるみさん。
 ちょっとだけ、わたしの練習に付き合ってください!


*****


「遥ちゃん! わたし、おいしいパンケーキが食べたいな!」
 ……ダメ。なんだか子供っぽい。もうちょっとちゃんと大人っぽい誘い方をしたい。

「ねえ遥ちゃん、わたしと一緒にお茶しませんか?」
 ……さっきよりは良くなったけど、なんだかちょっとむず痒い。それに、もうちょっとちゃんとデートに誘う感じがいいな。

「かわいいかわいいペンギンさん、わたしと一緒に遊びませんか?」
 ……ぜったいにない!!恥ずかしすぎて倒れちゃう!!

「……どうすれば、自然に誘えるんだろう?」
 問いかけるけど、ぬいぐるみは微笑むばかりで答えてくれない。

 遥ちゃんなら、どう答えてくれるんだろう?

『みのりは、みのりらしくいればいいんじゃないかな』


「……ねぇ、遥ちゃん。今度の週末、一緒にデートしませんか? ……うん。これが一番、しっくりきたかも」
「そうだね。飾らない、一番自然体のみのりでとても良かったと思う」
「そうだよね! よーし、それじゃあ改めて遥ちゃん、に…………」

 強烈な違和感を感じで後ろを振り返る。
 少しだけ困った笑顔の遥ちゃんがいる。

「は、はははははははははりゅ、はるかちゃん!?」
「落ち着いてみのり。ベッドから転げ落ちちゃうよ」
「どうして……いや、いつからそこに!?」
「その……駅前のカフェの話の時から……」
 さ、最初だ……最初から全部遥ちゃんに聞かれちゃってた……。
「うぅ……せっかく、せっかくこっそり練習しようと思ったのに……」
「ごめんね。本当はもっと早くに声をかけれればよかったんだけど、頑張ってるみのりの邪魔をしたくなくて」
「ううん、気にしないで。2人の部屋で練習してたわたしが悪いから! ……それで、遥ちゃん」
「うん。私に、言いたいことがあるんだよね?」

 いつもの優しい目で、遥ちゃんがわたしを見つめる。全部受け止めてくれる、優しい目。……やっぱり遥ちゃんには敵わないな。そんなことを思いながら、わたしは遥ちゃんに、わたしの一番の想いを伝える。

「遥ちゃん。今度の週末、一緒にデートしませんか?」
「はい。もちろん、喜んで!」


*****


「——というわけで、今度の週末はみのりとデートに行くから」
「オッケー。こはねにも伝えとくね」
「うん、お願い。夕飯までには帰って来れると思うけど、もしいらなくなったら早めに連絡するね」
「了解。……あ、そうだ」
「ん、何かあった?」
「いや、大したことじゃないけど。みのりのぬいぐるみにもちゃんとお礼言っとくんだよ?」
「……へ?」
「『たまにはみのりから誘ってほしいな』ってぬいぐるみに話しかけてたじゃん。お願い叶えてもらったんだからちゃんと……痛ッ!?」
「ど、どうしてそれを……!!」
「いや、お風呂場であんな長い時間喋ってたら嫌でも耳に……痛い!! ちょっ、脛は駄目だって!! 待っ、ねぇっ……こ、こはねー!! 助けてー!!」

- Afterword -
2021/08/20 「akmh覆面小説企画」参加作品

akmh覆面小説企画に投稿させていただいた作品です。
初回となるとかなり昔なので最初はタイトルと内容が結びつかなかったのですが、
ここへ掲載するために本文を読み返したら一発で思い出しました。やっぱり頭のどこかには残ってるものですね。

お題である「ぬいぐるみ」という要素にもかなり背中を押してもらいましたが、
みのはるだからこそ!って感じの甘くて素敵な話になっているんじゃないかなと思います。
ところで君タイトルのセンスいいね。名前なんていうの??