Doux chocolat
「うーん……うぅん……」
寒さの厳しい2月のある日。いつも通り登校すると、小鈴ちゃんがなにやら本とにらめっこしていた。
「おはよ〜、小鈴ちゃん」
「あっ、姫芽ちゃん! おはよう!」
『はじめてのチョコスイーツレシピ50』——本の表紙にはそんなタイトルが書かれていた。なるほど、そういえば来週はバレンタイン。小鈴ちゃんも誰かにチョコを渡すつもりなんだろう。アタシや吟子ちゃんに作るつもりなら、ここまで堂々と教室では読まないはず。となると……。
「さやかせんぱいとつづりせんぱいの分?」
「え゛っ、何で分かったの!? エスパー……!?」
「ふっふっふ、簡単な推理だよ徒町氏〜」
さすがだなぁ、なんて言いながら小鈴ちゃんは本を閉じる。どうやら一旦休憩らしい。
「さやか先輩と綴理先輩には、今年1年いーっぱいお世話になったので……だから、『日頃のお礼チョコ』チャレンジをしようかと思ってて!!」
「おぉ〜、いいねぇ。ということは、さやか先輩には頼らないってこと?」
「もちろん! サプライズだからさやか先輩には頼れないし、お菓子作りが得意な梢先輩も忙しそうだから頼れないけど……それでもこの1年で成長した徒町なら、ギリギリいけるのではないかと!!」
「ラブライブ!も優勝したしねぇ」
「そう! ラブライブ!も優勝したし!!」
小鈴ちゃんの目は一大チャレンジに燃えている。自信……があるわけではないんだろうけど、それでも今回は成功させるんだっていう強い気持ちを感じる、そんな目。
「それなら頑張らなくちゃねぇ」
「うん、がんばる! ……あっ、もちろん、姫芽ちゃんと吟子ちゃんの分もちゃんと作るからね!」
「お〜、それは楽しみだな〜」
日頃の感謝かぁ、そういうのもあるんだね。去年まではあんまり縁もなかったから気にしてなかったけど、そういえば「友チョコ」とかそういうのも聞いたことがある気がする。本命ばっかりじゃないんだねぇ。そういうことならアタシもめぐちゃんせんぱいやるりちゃんせんぱいに——。
「姫芽ちゃんは吟子ちゃんに作ってあげないの?」
「へぁ゛っ!?!?」
突然のぶっ込みに思わず変な声が出てしまった。半ば反射的に吟子ちゃんがまだ来てないことを確認して、そこから恐る恐るその言葉の真意を聞く。
「えっと……小鈴ちゃんや、なぜ急に吟子ちゃんの名が……」
「えっ、いや、徒町から見ても姫芽ちゃんと吟子ちゃんってすごく仲が良さそうだから……」
「仲が良い」というのは、小鈴ちゃんなりにぼかして言ってくれたものなんだろう。確かにアタシ、安養寺姫芽は、吟子ちゃんに対してそれなり以上に特別な気持ちを持っては、いる。吟子ちゃんがアタシのことをどう思ってるかは分からないけど……少なくともアタシにとってはその、「本命」ってやつになってしまうのが吟子ちゃんだった。
「徒町は恋とかまだよく分かってないけど……せっかくのバレンタインなんだし、想いを伝えてみてもいいんじゃないかな?」
……確かに、そういう日では、あるけどさ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「それでその気になっちゃうんだから、アタシも単純だなぁ」
「姫芽さん、どうかされましたか?」
「いえ〜! ごめんなさい、ちょっとした独り言です〜」
バレンタイン前日。結局その気になってしまったアタシは、お菓子作りを教えてもらうためにさやかせんぱいのお家に来ていた。
さやかせんぱい抜きで頑張ろうとしてる小鈴ちゃんには申し訳ないけど、アタシはアタシで、やるからには完璧なものを吟子ちゃんにあげたい。
本気でお菓子作りに挑戦したいこと、そして吟子ちゃんには内緒にしたいこと。その2つを伝えると、さやかせんぱいは二つ返事で了承してくれた。そうして前日の放課後、寮のキッチンじゃなくてさやかせんぱい家のキッチンをお借りしている……といういきさつだ。
「さて……時間もないですし、さくさく行きましょう。初めての挑戦で完璧を目指すなら、やはりトライアンドエラーが一番ですからね」
「はい、対戦よろしくお願いします! ……とはいえ買い出しもして作ったものは食べて、ってなると、胃のキャパ的にも時間的にも2回くらいが限界ですよねぇ……」
「ああ、そこは大丈夫です。買い出し班兼試食係を用意しましたので」
さやかせんぱいが指差した先には、テーブルを囲んで待機している、個性的な人たち。
「はーい。試食係の夕霧綴理でーす」
「村野つかさでーす、妹がお世話になってまーす!」
「……あのアタシ、せんぱいのお姉さんを雑用に使うの、流石に気が引けるんですけど……」
「気持ちは分かりますが、本人も乗り気なので大丈夫ですよ。……本当は小鈴さんにもお願いするつもりだったのですが、大切な用事があると断られてしまいました」
大切な用事——そっか。小鈴ちゃんは小鈴ちゃんで大事なチャレンジがあるんだもんね。
ちょっと寂しいですね、なんて言うさやかせんぱいの顔は、その言葉の割にちょっと嬉しそう。もしかして、全部気付いてるのかな。
「と、少し脱線してしまいましたね。とにかくわたしたちは作ることに集中すればいいので、どんどん挑戦していきましょう!」
「らじゃー! えっと、今日はガトーショコラを作るんですよね?」
「はい。混ぜて焼くだけなので作るだけならそこまで難しくなさそうですが、焼き加減によって仕上がりや食感が変わるので、そういう意味で挑戦し甲斐はあるかと」
せんぱいが眺めている本には『はじめてのチョコスイーツレシピ50』の文字。もしかしてめっちゃメジャーなレシピ本だったりする??
ところどころつけられた水色の付箋を見るに、さやかせんぱいはさやかせんぱいで何か別のものに挑戦するつもりみたい。まあ、アタシとさやかせんぱいじゃ流石に挑戦できるレベルも違ってくるよねぇ。
「来年はもっとレベル上げられるといいなぁ」
「ふふっ、そうですね。そのためにも、まずはここでしっかり経験値を積んでいきましょう!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
……混ぜて焼くだけ。
口で言うのは簡単だけど、見習いパティシエのアタシにはこれが随分難しい。
「……素材の味がする……」
「ちょーっと焼き時間が足りなかったかもねぇ」
「うにゃー! ちゃんとレシピ通りやったのに~!!」
1回目のガトーショコラは生焼けだった。
さやかせんぱい曰くオーブンによって個体差みたいのもあるから、その辺りは調整していくしかないらしい。つづりせんぱいとつかささんがいてくれて良かった。買い出しまで自分たちでやってたら、多分オーブンの個性を掴む前に時間切れになっちゃってたと思う。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……に、苦い……」
「綴理先輩! 焦げたのは無理に食べちゃ駄目です!!」
「うぅ……ごめんなさいせんぱい~……」
2回目は逆に焦げてしまった。ちょっとだけ時間を伸ばしてみたつもりだったけど大失敗。思ってたより短い時間で致命的に変わっちゃうからなかなか難しい。
低温でじっくり焼く方法も提案されたけど、それはあんまりやりたくなかった。焼き加減を変えると仕上がりも変わる。低温で時間をかけるとしっとりした濃厚な仕上がりになるらしいんだけど、なんとなくそれは吟子ちゃんの好みに合わない気がした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ほら、やっぱり甘すぎますよ!!」
「うぅ、しかしみらぱ!の一員としてはシュガーの量には一家言が……」
「目を覚ましてください、今姫芽さんが作っているのはハクチューアラモードじゃなくてガトーショコラです!」
3回もやれば流石に焼き加減は上出来。
だけど今度は味が問題。おかしい、「シュガーは思ってる3倍」がめぐるりの教えのはず……。
結果としては「お菓子作りで安易な分量変更はご法度」というさやかせんぱいの教えの方がこの場では正しいということになってしまった。いや、まあ分かってたことではあるんだけどね。むしろ一度は折れて好きにやらせてくれたさやかせんぱいに感謝だ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「今度はちゃんと分量通りにやってみたんですけど~……」
「まだ、ちょっと甘いかも?」
「ビターチョコだとまだ不十分なのかもしれませんね……。今度はさらにカカオの分量が多いチョコで試してみましょうか」
4回目はほぼ100点。分量もちゃんとレシピ通りだし焼き加減も申し分なし。普通に友達にあげるのならこれで完成でいいくらいだと思う。
だけど吟子ちゃんにあげるにはまだちょっと甘いかも。コーヒーとか和菓子とかが好きだし、甘いものよりもビターな味わいの方が好みだと思うんだよね。
……せっかく作るんだもん。できることなら、少しでも幸せそうな吟子ちゃんの顔が見たい。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そして、5回目。
「……うん、おいしい」
「大人の味って感じだね~!」
「わたしもかなり良い感じかと思いますが……どうですか? 姫芽さん」
「はい、完璧です! 完璧なガトーショコラです~!!」
仕上がりバッチリ。食感もOK。味も絶妙。
これで完璧だって自信を持って言える……そして、これが本命だって胸を張って渡せるガトーショコラが、ついに完成した。
スマホを見るともう19時前。本当はもう少しくらい余韻に浸っていたかったけど、急いで片付けて帰らないと寮の門限に間に合わない。
「あっ、大丈夫だよ姫芽ちゃん。片付けはわたしがやっておくから!」
「えっ!? いやでも、お姉さんの手を煩わせるわけには!」
「いいのいいの! わたしの家だから時間も気にしなくていいしね」
「で、ですが……」
「だからその分、丁寧にラッピングしてあげて? 大切な人にあげるものなんでしょう?」
……なるほど。この姉にして、この妹ありというか。
確かに、ガトーショコラ自体は完成したとはいえ、この状態のまま持って帰って渡すわけにはいかない。梱包用の袋や箱も用意してもらってたし、そこまで綺麗に仕上げて初めて「完璧」といえるはずだ。
「ありがとう、お姉ちゃん。ちょっと洗い物は多いけど……」
「大丈夫大丈夫! 気にしないで!」
「ありがと、お姉ちゃん〜」
「綴理先輩のお姉ちゃんではないでしょう……。……さて姫芽さん、そういうことですので」
「はい! すみません、後片付けはお姉さまにお任せします! さやかせんぱい、もう少しだけお力を貸してください〜!」
「もちろんです。最後まで完璧に仕上げてみせましょう!」
崩れないように袋に入れて、それを箱に入れて、隙間を埋めて……。
そうして、アタシの人生初めての、本命チョコは出来上がった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
2月14日。バレンタイン当日。
昨日作ったチョコは念のため部屋の冷蔵庫へ。後は吟子ちゃんに放課後時間をとってもらって、寮に戻ってきたタイミングでこれを渡すだけ。
……そう、言葉にすれば簡単ではあるけど。
どうにも、吟子ちゃんに避けられてる気がする。
朝も始業ギリギリで来てたし、休み時間はすぐどこかに行っちゃうし……。教室で目が合った時の反応も、気まずそうでどこかよそよそしい。
気付けば一言も話せないまま帰りのホームルームが終わっていた。おかしいな、普段ならこんなこと絶対にないはずなのに。
「あ、あの、吟子ちゃん……」
「ご、ごめん姫芽、私この後用事あるから……!!」
教室を出る直前、最後のチャンス。上擦った声はあっさりと流されて、吟子ちゃんは放課後の人混みに消えていった。
……あー……アタシ、何かしちゃったかな……。変なことをしたつもりはないんだけど。
でも確かに今日のアタシ、ちょっと浮かれてて気持ち悪かったかもな。我ながら舞い上がってたというか、空回ってたというか。側から見てもそんな感じだったのかも。そりゃあ吟子ちゃんも、あんまりいい気分ではないよね。
……やっぱり、本命チョコだなんて、柄じゃなかったかも。折角さやかせんぱいにも手伝ってもらったのに……なんか、情けないや……。
「随分と辛気臭い顔してるねぇキミぃ!!」
ぐるぐると巡る悪い思考を遮る天使の声。振り返ればサンタさんみたく大きな袋を背負い込んだめぐちゃんせんぱいがドヤ顔で立っていた。……後ろからるりちゃんせんぱいがげんなりとした顔でついてきている。
「めぐちゃんせんぱい、それは……?」
「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれた!! 今からこの大量のチョコを、金沢中にばら撒くんだよ!!」
「世界中を夢中にさせるためには、蓮ノ空だけじゃ足りないんだってさ……。ルリは腹を括った、ひめっちも腹を括ってくれ」
「あ、いや、でもアタシ……」
「ほら行くよ姫芽ちゃん!! まずはこの金沢の地から!! めぐちゃんの新たな伝説は動き出すのだー!!」
ノリノリのめぐちゃんせんぱいと、申し訳なさそうな顔のるりちゃんせんぱいにずるずると引き摺られながら、教室を離れていく。
……まあ、いっか。渡せなかったチョコのことは、もう。めぐるりに尽くすアタシに気持ちを切り替えて……ビターな想いは、初めから無かったことにした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「る、ルリ、もう限界……無理……」
「あ、アタシも限界です……というかめぐちゃんせんぱい、大丈夫でしょうか……」
「多分大丈夫じゃないと思うけど……めぐちゃんは流石にお灸を据えられるべきだと、ルリ思う…………」
めぐちゃんせんぱいのチョコばら撒き大作戦はどうやら届出なんてしてなくて、何なら外出申請すら出してなかったらしい。
当然学校側が見逃すはずもなく、その大きな袋が目立ちまくったのも相まって大作戦は学校の敷地から出る前に先生・生徒会との全力鬼ごっこに発展。日が落ちきるまで続いた死闘は、最終的にみらぱ!の完全敗北で幕を閉じた。
アタシとるりちゃんせんぱいは申請周りの事情を知らなかったのもあってすぐに解放されたけど、代わりにめぐちゃんせんぱいは責任者として生徒指導室に連行。性根も充電も尽き果てたアタシたちは、ふらふらになった足取りで学校を後にしたというわけだ。
「……ごめんね、ひめっち」
「え? いえ、るりちゃんせんぱいが謝ることじゃないですよ! そもそもアタシは、お二人のやることならどんなことでもご一緒しますし!!」
「でも今日、ちょっと無理してたでしょ?」
「あっ……そ、それは……」
無かったことにしたものだから、誤魔化してもよかったけれど……だけどるりちゃんせんぱいの目まで誤魔化せる気はしなかった。沈黙を肯定と受け取ったせんぱいは、さらに言葉を続ける。
「普段のルリなら、今日みたいなひめっちには絶対無理させなかったと思う。何があったのか聞いて、一緒に悩んで、ひめっちが元気になるまで待ってたと思う。……でも、今日はどうしても巻き込むしか無かったんだ。本当にごめんね」
「それは、めぐちゃんせんぱいのやりたいことだったからですか?」
「んーん。そもそもめぐちゃんだって、ひめっちの調子が悪いことくらい分かってたよ。……頼まれたんだよね。『時間が欲しいから、夜まで姫芽を寮に来させないでほしい』って」
「……それって……」
……それ以上は、聞かなかった。誰が言ったのかも、なんで言ったのかも、目の前の景色を見て理解したから。
寮の入口、その前に、吟子ちゃんが立っていた。外に出るには少し寒そうな部屋着に、あちこち汚れたエプロン。そして手には、小さな紙袋。小さく震えながら、真っ直ぐな目で、アタシの帰りを待っていた。
「ねぇ、ひめっち。……聞かなきゃいけないことも、言わなきゃいけないことも、いっぱいあるんじゃない?」
るりちゃんせんぱいのそんな声に背中を押されて、吟子ちゃんのところへ駆け出す。
思わず抱きつきそうになって、いや、それはちょっと気持ち悪いかも、多分走りすぎてちょっと汗臭いし……なんて踏み止まる。踏み止まったのに、そんなこと全部見透かしてるかのように、吟子ちゃんはアタシの胸に飛び込んで来た。
「……吟子ちゃん」
「ごめん、姫芽。今日の私、ちょっと変だったよね」
「それは……いや、うん。正直、ちょっと凹んだかも……」
「うっ……本当にごめん……。出来立てをあげなきゃ意味ないから、放課後作るしかなくて……失敗できないって思ったら、朝から緊張してうまく話せなかった……」
アタシから一歩離れた吟子ちゃんから、代わりに持っていた紙袋を手渡される。まだほんのりと温かいそれからは、ほんのりとチョコの甘い香りがした。
「……フォンダンショコラ。多分、まだちゃんとチョコが溶けて出てきてくれるはず。……姫芽だけのために、作ったから、受け取ってほしい」
「そ、そっか」
寒いはずなのに、かっと頬が熱くなる。アタシだけのためってことは……そういうことだって、期待してもいい?
茹だりそうな頭を、駄目だ駄目だと必死に回す。また浮かれてる場合じゃなくて、アタシには、今度こそ伝えなきゃいけないことがある。
「……アタシもさ、作ったんだ。吟子ちゃんのためだけに」
「……えっ?」
「今はアタシの部屋にあるからすぐには渡せないし、ガトーショコラだから吟子ちゃんのフォンダンショコラに比べたらだいぶ見劣りしちゃいそうだけど……一生懸命作ったから……その、受け取ってくれると、嬉しいというか……」
「……うん、勿論! すっごく嬉しい!!」
……ああ、良かった。こんなに喜んでもらえるんだ。
安心したらなんだか気が抜けてしまって、周りの寒さも相まって小さなくしゃみが出た。後から追いついてきたるりちゃんせんぱいが、アタシたちを追い越しながら困ったように笑う。
「お二人さんや、こんなところに長居してたら風邪をひいちゃうぞ〜?」
「た、確かに……。えっと、中入ろっか、吟子ちゃん」
「うん。……そうだ。私コーヒー淹れるから、姫芽のガトーショコラ、持って来てよ。フォンダンショコラと一緒に食べよう?」
「おけおけ〜。……目の前で食べられるの、ちょっと恥ずかしいけど……」
「そ、それはお互い様でしょ」
そうと決まれば……そうやって駆け出そうとして、もう一つだけ伝えなきゃいけないことがあったことに気付いた。
……正直、顔から火が出そうな程恥ずかしいけど。でも、ちゃんと伝えたい。吟子ちゃんの想いに触れられた今だから、ちゃんと言葉にしたい。
「……ねぇ、吟子ちゃん」
「何?」
「……大好き、です」
「……ふふっ、あんやと。……私も、大好きやよ、姫芽」
——ただただ、想いを伝えただけ。まだ2人の関係に新しい名前が付いたわけでも、生活が劇的に変わるわけでもない。
それでも今は、それでいい。甘いお菓子に混ぜ込んだ、溶けてしまいそうな程大切な想いを、確かに伝えて、繋がれたから。
「フォンダンショコラ美味しい〜、甘い〜」
「良かった。姫芽のガトーショコラも美味しいよ。ちょうどいい甘さですごく好き」
だから今日の残りは、そのご褒美を。
……もう一口含んだフォンダンショコラは、確かに、甘い恋の味がした。
2025/02/17 投稿作品
バレンタインのお話です。2日程遅刻してしまいましたが……。
14日中に間に合わないことが確定した時点で没にしてしまおうか悩みましたが、
無かったことにしてしまうにはあまりにも惜しく感じてしまい、
「書き上げるまではバレンタイン」理論を振りかざし押し通すことにしてしまいました。
そのくらいには気に入っている作品です。
特に社会人になってからはバレンタインにほぼほぼ縁のない生活を送っていますが、
それでも「バレンタイン」というイベント自体は結構好きです。
皆でわいわい友チョコを交換したり、義理チョコを雑にばら撒いたり、
そんな中で、たった一つの本命に精一杯心を込めてみたり。
いいですね。とっても青春です。バレンタインというよりただ青春が好きなだけかもしれません。