サンタさんって本当にいるの?

「吟子ちゃん、姫芽ちゃん、もうすぐクリスマスだね!」
「そうだね。……2人は、サンタさんに何お願いするの?」
「あー、アタシはゲームのコントローラーにしようかな〜。最近皆で遊ぶことも増えてきたし〜」
「徒町は新しい靴にしようかな! 今練習で履いてる靴はだいぶへたってきちゃったし……!」
「そっか、いいね」
「吟子ちゃんは何をお願いするの?」
「私は裁縫の本とかかな。衣装を作ることが今まで以上に増えてきたから、もっと知識の方も磨きたくて」
「2人ともえらいねぇ〜。アタシももっとスクールアイドル活動の役に立つものの方がいいかなぁ」
「姫芽はそのままでいいんじゃない? 私たちともっと一緒に遊べるようにって考えてくれるの、すごく姫芽らしいと思う」
「徒町もそう思う! いやぁ、ますますクリスマスが楽しみになってきちゃったなー!」
「サンタさんが困らないように、早めにお手紙書いて置いておかなくちゃね〜」
「そうだね。……サンタさん、今年も来てくれるかな」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 ……私は、一つ嘘をついた。
 百生吟子16歳、いくら中学まで友達が少なかったとはいえ、流石にサンタの正体が親であることはもう知っている。一応様式美として欲しいものを紙に書いて枕元の靴下に入れておく一連のルーティンは去年までやっていたけれど、この全寮制の蓮ノ空まで親サンタが来れないのはいくら私とはいえちゃんと理解しているのだ。

 ただ私はそうでも他の人たちがそうとは限らない。特に小鈴なんかは純粋で時々抜けてる子だからこの歳まで本気でサンタさんを信じてても納得できる。
 そんなわけで探りの意味も込めて話を振ってみたんだけど……まさか小鈴だけじゃなくて姫芽までサンタさんを信じているだなんて……うっかりわかってる前提で話をしなくて本当によかった。

 だけど問題はもう一つある。そう、蓮ノ空に親サンタは来れないのだ。このままだとプレゼントが貰えなくて小鈴と姫芽が傷ついてしまう。どこかで大人の階段を上ることだって必要なのかもしれないけれど、それでも私は2人の悲しい顔は見たくはない。
 ……私が、私がなんとかするしかない。幸い2人が欲しがっているものは今日の会話でわかってる。私が小鈴や姫芽のご両親ご親族の方々に代わって、2人の夢を守るんだ……!!

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 ……徒町は今日、一つ嘘をつきました。
 徒町小鈴15歳、いくら失敗だらけのうっかり屋さんとはいえ、流石にサンタの正体が親であることは知っています。というか小2の頃にはもう知ってました。年上の親戚が多いとそういう残酷な真実に気付くのも早いのです。当然この全寮制の蓮ノ空に親サンタが来れるわけないことも、いくら徒町とはいえちゃんと理解しているのです。

 ただ徒町がそうでも皆が皆わかってるとは限りません。特に吟子ちゃんなんか意外と純粋だからこの歳までサンタさんを信じてたって不思議じゃないし……。
 そして今日の会話で確信しました。吟子ちゃんも姫芽ちゃんもサンタさんを信じてるって。姫芽ちゃんはほんのちょっと意外だったけど……まあでも姫芽ちゃんも結構可愛いところあるしね。

 だけど問題がもう一つ。そう、蓮ノ空に親サンタは来れないのです! このままだと吟子ちゃんと姫芽ちゃんが私悪い子だったのかなって泣いちゃいます! いつかは知ることになる真実かもだけど、徒町は2人の悲しむ姿はできれば見たくないのです。
 ……徒町が、徒町がやるしかない。幸い2人の欲しいものは今日聞けたもんね。徒町が吟子ちゃん姫芽ちゃんのご両親ご親族に代わって、2人の笑顔を守るんだ……!!

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 ……アタシは、嘘をつきました。
 安養寺姫芽16歳、ぶっちゃけ当然というかなんというか、流石にサンタの正体が身内だということは知っている。毎年頑張って誤魔化してくれるお姉ちゃんに申し訳ないから小学生の間はいる前提でいろいろ動いてたけど……当然この全寮制の蓮ノ空に姉サンタが来れないことも、他の多くの蓮女生同様ちゃんと理解してるのだ。

 ただアタシがそうでも周り皆がそうとは限らない。なんてたってアタシの同期は吟子ちゃんと小鈴ちゃん。正直この2人は信じててもあまり不思議じゃない。
 そしてその直感は見事に的中していた。いやぁ、話を合わせて本当に良かった……。いじわるのつもりでいじってたりなんかしてたら今日が小三角解散記念日になってしまう可能性もあった。

 でも問題はもう一つある。そう、蓮ノ空に親サンタは来れないのだ。このままだと吟子ちゃんも小鈴ちゃんも絶対に落ち込んでしまう。そりゃあ、いつまでも知らないままじゃいられないだろうけど、アタシは2人の辛い顔は見たくないんだ。
 ……アタシが、アタシが頑張るしかない。今日2人の欲しいものも聞けたのは大きかった。吟子ちゃん小鈴ちゃんのご両親ご親族に代わって、アタシが2人の幸せを守るんだ……!

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「……大変なことになったよ。さやかちゃん、瑠璃乃ちゃん」
「そうですね……正直ここまでとは予想外でした」
「いやぁ困ったね……まさか1年生皆サンタさんを信じてるとは…………」

 1年生の会話を聞いてしまったその日の夜。あたしたち2年生メンバーは、さやかちゃんの部屋で緊急会議を開いていた。
 議題はもちろん、1年生が3人揃ってサンタさんを信じてる件について。

「吟子ちゃんはもしかしたらって思ってたけど……あんなにルンルンで信じてるなんて……」
「小鈴さんは、確かに信じててもそこまで不思議ではないですが、でも流石に分かっているものかと……」
「ひめっちは正直すごく意外だったなぁ。結構そういうのは敏そうなのに……」

 まあ、信じてるってことはいいことだと思う。それだけ周りの人たちに大切にされてきたってことだよね。
 でも問題はもう一つ。そう、このままだと今年の皆にはサンタさんが来ないってこと!

「この直前のタイミングで真実をお伝えするのも忍びないですしね……」
「こうなったら、あたしたちが代わりにサンタさんになるしか……!!」
「一応皆が欲しがってるものは今日わかったもんね。ルリたちが頑張るしかないかぁ……!」

 そう、これは1年生たちの夢と笑顔を守るためのミッション。

「3人の幸せは、あたしたちが守るんだー!!」
「「おー!!」」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「……これは、本当に、どういうことなのかしら……」

 12月23日、午後9時。
 部屋の机に並べられた3つの包みと3着のサンタ衣装を前に、私は思わずそう呟いていた。
 これを用意したのは私ではない。今年は部員も増えたのでクリスマスプレゼントは簡単なお茶菓子セットを作って配信の後に配るつもりだったし、そもそも私は3人に分身できないので3着も衣装はいらない。……この3セット分のクリスマスプレゼントは、それぞれ別の子から渡されたものだった。

『ごめんなさい梢大先輩! 徒町だと絶対にヘマをしてしまいそうで……!!』
『一応アタシ自身もサンタを信じてることになってるので、ちょっとお手伝いいただきたくて〜』
『あたしより梢センパイの方が安心だと思うんです! お願いします〜!!』

 そう言われながら託された、吟子さん宛のクリスマスプレゼント3セット。丁寧にサンタ服まで用意してくれたのは確かに助かるのだけれど……その、皆で事前に打ち合わせとかはしなかったのかしら……? プレゼントの中身は細かい違いはあれど皆裁縫の本みたいだし……。
 とはいえ、吟子さんの夢を守ってあげたいという皆の気持ちは理解できる。同じことを事前に聞いていれば私も同じことをしたでしょうし、そう考えればプレゼントの被りもそれだけ吟子さんが愛されてる証拠なのかもしれない。

 そういうことなら……私も皆の優しさを無碍にしないよう、吟子さんの夢を守るため一肌脱がなくてはならないわね…………。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 12月25日、午前1時。
 おツルさんを抱きしめながら、緊張した私は全く寝付けずにいた。
 理由は2つ。1つ目は、クリスマスプレゼントを小鈴と姫芽の元へ届けるタイミングがちょうど今頃だから。私は一応サンタを信じてる体でいるから、万が一を考えると直接渡しにはいけない。というわけで綴理先輩と慈先輩にそれぞれお願いしたんだけど……上手くいってるだろうか。我ながら結構無茶なお願いをしてしまったと思ってるし、今度何かお礼とお詫びをしないと……。
 そして2つ目の理由は、2人と話を合わせるために今部屋の鍵を開けてるから。

『サンタさんが入って来れるように、部屋の鍵開けとかなきゃね〜』
『はっ、確かに! 徒町も忘れないようにしないと!!』
『家にいた時とは違うもんね。私も気をつけないと』

 当然私はサンタが来ないって知ってるから本来鍵を開けとく必要はないんだけど……例えば明日の朝小鈴あたりがプレゼントを持ってウキウキで私の部屋に報告しに来た時、鍵が閉まってると多分ちょっと面倒なことになる。私の目標はただプレゼントをあげることじゃなくて、2人の夢を守ること。事故の可能性は少しでも下げておきたい。
 だけど、鍵を開けてるということはそれだけセキュリティに穴が空いているということだ。サンタが入ってくることは絶対になくとも、単純に悪い人が入ってくる可能性は否定できない。山奥にある学生寮だから可能性は低いとはいえ、0を1にしてしまっている状況ではあるのだ。

 いやでも、流石にそんなこと起こらないよね? そもそも部外者は許可なしには敷地内にすら入れないようになってるはずだし。
 これ以上明日に疲れを残すわけにもいかないし。そう理由をつけて目を閉じようとした瞬間——ガチャリ、と、微かに扉の開く音がした。
 頭が一瞬真っ白になる。心臓が高鳴りパニックを起こしそうになる。カサカサというほんの僅かな物音を立てながら、ゆっくりと近づいてくる人の気配。嫌だ、誰、怖い。とにかくまずは安心したい。そうだよきっと寮母さんとかだよ、どうせ大したことないから一度確かめて落ち着こう。それが本当に最善なのかも判断できないまま、私は手元のスマホでベッドの横に立った人影を照らす。そこに立っていたのは……。

「……梢先輩……?」

 ……サンタ服とつけ髭に身を包んだ梢先輩だった。

 え? なんで? なんで梢先輩がこの時間に私の部屋に? というか何でそんなに気合の入ったサンタの格好を??
 頭の中に大量に浮かぶ疑問を消化できないまま時間が過ぎていく。流れる沈黙が気まずいものになり始めた時、梢先輩が口を開いた。

「……ふぉっふぉっふぉっ、見つかってしまったみたいじゃのぅ」
「こ、梢先輩??」
「今年いい子にしてた君にプレゼントをあげよう」
「あ、ありがとうございます……?」
「明日も学校なのじゃろう? あまり夜更かしせずに早く寝るのじゃぞ。ふぉっふぉっふぉっ」
「あの、あまり無理して低い声を出さなくても」
「ではわしはこれで。メリークリスマース!」

 そう言い残して梢先輩サンタは、物音がしないのが信じられないくらいの速度で走り去っていった。
 ……な、なんだったんだろう。とりあえずいただいたプレゼントの包装を1つずつ剥がしてみると、それぞれ裁縫に関する別の本が出てきた。嬉しい。嬉しいけど、なんで梢先輩がサンタの格好で裁縫の本をわざわざ3つの包みに分けて??

 謎は深まるばかりだけど、こっそり動けば思った以上に物音が立たないと分かったのは収穫だったかもしれない。私は起きてたから気付いたけど、寝ている時に同じ状況になっていたら絶対に気付けなかっただろう。この感じなら綴理先輩と慈先輩はきっと——。

 ——待って。まさか。
 梢先輩も、誰かに頼まれて——!?

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 ……私は、可愛い後輩一人の夢も守れない愚かな先輩だわ……。
 よりにもよって入った瞬間起こしてしまった上に正体までバレてしまうだなんて……これでは信じて頼んでくれた小鈴さんや姫芽さん、そして花帆に合わせる顔がない。
 しかもショックと罪悪感で一睡もできず授業にも集中できなくて……。先生やクラスメイトにもクマがすごいと心配されてしまった。信頼を裏切るばかりでなく、起きてしまったことを引きずって日常生活まで疎かにするなんて、部長としてあるまじき姿。一体今後どんな顔で皆を指導すればいいのだろう。

 とにかく、まずは夜の配信に向けて少しでも体勢を立て直さなければ。少しはしたないけれど、誰かが来るまでは部室で仮眠をとって……。なんて考えながら入った部室には……机に突っ伏して力尽きている、同期たちの姿があった。

「ど、どうしたのかしら、あなたたち……」
「こず……ボクは……ミジンコだ……」
「はっはっは、綴理は変なこと言うなぁ。ミジンコはね、めぐちゃんの方だよ……」
「と、とりあえず何があったのか教えて頂戴。ミジンコを名乗られても何のことだかさっぱりだわ」

 私の呼びかけに応えてゆっくりと身体を起こす綴理と慈。2人とも目の下にとんでもないクマができている。もう3年間一緒にいるのに、初めて見るレベルのクマだった。

「ちょっ、梢クマすごいよ!? ちゃんと寝た!?」
「あなたに言われたくないのだけれど!? ……まあ、ちょっといろいろあって寝付けなくって……」
「こずも寝不足ミジンコ仲間?」
「不本意だけど、まあ心持ちとしてはそうなってしまうわね……」

 そうして空いている席につきながら、視線で綴理に相談を促す。私の言いたいこと自体は伝わったようだけれど、言葉にするにはまだ消化しきれていないことだったみたいで……しばらくうんうんと唸った後、再び綴理は机に突っ伏した。

「ボクは……すずのサンタさんになれなかったんだ……」
「ん? 綴理もサンタやってたの?」
「『も』ってことは、慈も?」
「まあ、ね……。なんてたってるりちゃんの頼みだったし。それに加えて吟子ちゃん小鈴ちゃんからも頼まれたとあっちゃ一肌脱ぐしかないでしょ。……まあ、姫芽ちゃん起こしちゃって失敗したんだけどさ……」
「ちょっ、ちょっと待って頂戴。その言い方だと姫芽さんがサンタを信じてたみたいに聞こえるわ。サンタを信じてるのは吟子さんでしょう? だから小鈴さんと姫芽さんと花帆がプレゼントを用意してて……」
「え、何言ってんの? サンタさんを信じてるのは姫芽ちゃん。吟子ちゃんは全部知ってるから私にサンタ役頼みに来たんでしょ」
「私は吟子さんの夢を壊さないようにと姫芽さんにサンタ役を依頼されたのだけれど……?」
「えっ?」
「? サンタを信じてるのはすずだよ? すずの笑顔を守ってくださいって、ぎんとひめとさやにお願いされたもん」
「「え、えっ??」」

 何だかよく分からないことになってきた。サンタを信じてるはずの吟子さんに頼まれて綴理と慈がサンタ役を? サンタを信じてるのは小鈴さんと姫芽さん?? それなら2人はどうして私にプレゼントを預けに???
 寝不足なのもあって頭が回らない。全く話が噛み合わない状況に3人揃って目が回り始めた頃……部室の扉が、再び開け放たれた。

「フラワー! 花帆サンタが先輩方に幸せを……って、3人ともものすごいクマじゃないですか!!」

 現れたのは、サンタ帽を被った花帆だった。帽子の先のポンポンが、慌てふためく花帆に合わせてぴょこぴょこと動いていてとても可愛らしい。

「ふふっ。花帆、似合ってるわね。……私たちとは大違いだわ……」
「そうだね。私たちミジンコサンタ三人衆よりよっぽどサンタさんやってるね……」
「かほは、ちゃんとサンタできてえらいね……」
「あー!! もしかしなくても昨晩の話してますよね!? その件は申し訳なかったといいますか、そのことで先輩方にご報告しなければならないことがあって!! ……だから梢センパイ、今から食堂に行きましょう!!」

 ……しょ、食堂??

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 花帆に連れられ、3人食堂へ向かう。一番入口に近いテーブルで、花帆とお揃いの帽子を被った1年生と瑠璃乃さんが、何やら忙しなく動いていた。

「あっ、大先輩方……って、え!?」
「め、めぐちゃんせんぱい〜! またクマがすごいことになっちゃってますよ〜!!」
「梢先輩も綴理先輩も……ま、まさか……」
「ふふふ……可愛い後輩との約束も守れない私たちにはこのくらい惨めな姿がお似合いだわ……」
「や、やっぱり……! ごめんなさい梢先輩!! 私たちが変な勘違いしちゃったせいで!!」
「か、勘違い?」

 なんだかとてもばつが悪そうな1年生たち。しばらくお互いに顔を見合わせて、意を決したように吟子さんが再び口を開く。

「その……私たち、誰ももうサンタさんは信じていなかったといいますか……」
「「「……え?」」」
「えっとですね〜、皆もうとっくの昔にサンタさんの正体なんて気付いてたんですけど……お互いがお互いに話を合わせようとした結果、皆それぞれ周りがサンタさんを信じてるって勘違いしちゃったという感じでして〜」
「「「……」」」
「それで自分が何とかしなきゃって皆考えた結果、それぞれが大先輩方にお願いしてプレゼントを届けてもらおうとしてたって感じで……」
「じ、じゃあるりちゃんは!? るりちゃんはなんで私に頼みに来たの!?」
「いやー、ルリたちはルリたちで3人の会話聞いてて、1年生3人ともサンタを信じてるって勘違いしちゃってさ〜……。2年生で分担してプレゼントを用意してたんだよねぇ……」
「「「……」」」

 つまり私たちは、最初からバレるも何もなかった話でこんなにも追い詰められていたのね……。話が分かるとなんだか安心感と恥ずかしさが込み上げてきて、足に力が入らなくなる。横を見れば綴理と慈も、同じように床にへたり込んでいた。

「せ、先輩ー!!」
「ご、ごめんなさいね……なんだか安心したら気が抜けてしまって……」
「よかった……ボクはすずから夢と笑顔と未来を奪ってしまったと思ってた……」
「全然よくなーい! めぐちゃんたちはこんなクマできちゃうくらい悩んでたんだぞー! 睡眠時間返して〜!!」
「ご、ごめんなさい〜! あたしたちも悪いと思ってて!! だから……さやかちゃん!」
「はい。ちょうど今できたところですよ」

 突然現れたエプロン姿のさやかさんは、お皿にのったホールのケーキを携えていた。クリームで整えられた白い土台に、いちごを中心とした色とりどりのフルーツたち。そして中央にはサンタとトナカイの砂糖菓子がちょこんと乗っている。

「さやかさん、まさかこれ、自分で……?」
「はい、元々今夜綴理先輩と小鈴さんに小さいケーキを作ってあげるつもりだったので。その材料も使って、厨房をお借りして作ってみました。……人数が増えたり時間がなかったりと色々あったので、土台にパンケーキを使ったりなどちゃんとしたケーキとは程遠いですが……」

 ケーキがテーブルの中央に置かれて、一気に卓上が華やかになる。よくよく見るとケーキ以外にもお菓子や飲み物も一通り用意されていて、ちょっとしたパーティの様相を呈していた。

「ご迷惑おかけしたお詫びに、プチクリスマスパーティなんていかが?って寸法っスよ。……いやまあ、パイセンたちめっちゃ眠そうなんで、そこそこに切り上げて仮眠取ってもらったほうが良さそうですケド……」
「でももちろん、それだけじゃぜんぜん埋め合わせとしては足りないと思ってるので……だから!」

 私の手を取って、花帆が微笑む。

「今度の週末、あたしと吟子ちゃんとお出かけしましょう、梢センパイ! 頑張ってくださった梢サンタに、花帆と吟子ちゃんから何かプレゼントさせてください!!」

 吟子さんも花帆の隣に駆け寄って、少し申し訳なさそうに、そして照れくさそうに笑う。埋め合わせなんてしてもらうまでもなく、その気遣いと暖かさだけで十分報われた気持ちになるのだけれど……それを口に出したら、吟子さんがもっと困った顔になってしまうかしら。

「わたしたちもですよ、綴理先輩。埋め合わせも兼ねて、今度また出かけましょう」
「徒町も全力でお手伝いします! お弁当の中身、ぜーんぶ綴理先輩の好きなものにしちゃいましょう!」
「勿論めぐちゃんもだからね! ルリサンタとひめっちサンタが、めぐちゃんの願いをなんでも叶えてしんぜよう〜」
「はい、任せてください〜! あっでも、るりちゃんせんぱいと2人で過ごしたいとかあれば、アタシはすぐに空気になるので!!」

 本当に、お互いいい後輩を持ったわね。
 綴理と、慈と目を合わせて、そうして小さく笑いながらそれぞれ立ち上がる。

「……でも、このままだとさやのプレゼントがない」
「えっ? わたしの、ですか?」
「確かに。私と姫芽ちゃんは沢山貰ってるりちゃんは何もないってのもねぇ〜」
「や、別にルリのことは気にしなくても……」
「いいえ。1年生と私たちのために、ずっといろいろ考えて動いてくれてたんだもの。2年生だけ、なんて寂しいわ。だから——」

 花帆の手を解いて、今度は私から、2人の手を握る。目をぱちくりさせる花帆に対して、吟子さんはその意図が分かったみたいで、さっきよりまっすぐな笑顔で私の手を握り返してくれた。

「——今度の週末は、花帆のプレゼントも探しにいきましょう。……吟子さん、手伝ってくれるかしら?」
「はい! 勿論です!」
「え、い、いいんですか!?」
「当然よ。花帆だって、今年はいい子にしてたものね」
「梢先輩〜! 大好き!! 吟子ちゃんも大好きだよー!!」
「わっ、ちょっと、恥ずかしいってば!! 食堂だから他の人も見てるんだよ!?」

「さやもいい子〜」
「るりちゃんもいい子だもんね〜」
「あはは……」
「なんだかちょっと恥ずかしいねぇ〜……」

 DOLLCHESTRAとみらくらぱーく!もうまく話が纏まったらしい。なんだか去年までより相当ドタバタしたクリスマスだったけれど……落ち着いてみれば、なんだかんだ良いものだったかもしれない。
 少なくとも蓮ノ空で過ごす最後のクリスマスとしては、とても私たちらしくて申し分ないのではないだろうか。

「じゃあ、そろそろパーティの方も始めましょう!」
「そうね。私たちは配信の前に休む時間も必要だし……」
「乾杯の音頭は誰が取りますか?」
「吟子ちゃんじゃね? 騒動の発端となった責任を取って」
「え!? いやでも小鈴と姫芽だって」
「「最初にサンタの話出したのは吟子ちゃんだから」」
「〜っ!! わかった!! わかりましたから!! それでは皆様コップを手にとって!!」

「メ、メリークリスマス!!」
「「「「「「「「メリークリスマス!!」」」」」」」」

- Afterword -
2024/12/25 投稿作品

クリスマスネタです。
クリスマスのお話はいくつか考えていたもののうまく形にならないのが続いていたのですが、
唐突に降りてきたこのアンジャッシュネタがあまりにも個人的に好きすぎて、
クリスマス当日までに慌てて書き上げることにしました。
突貫工事で書いたのでそれなりに拙い部分もありますが、
雰囲気としては悪くないものが出来上がったのではないかと思っています。

2人だけの世界で紡がれる物語というのも勿論乙なものですが、
個人的にはこういった、たくさんの人が関わって展開する物語の方が性に合っています。
今回はオールキャラですが、それこそCPが中心となるものであっても。
世界はたった2人で完結するほど単純なものではなくて、
たくさんの人と関わりながら、人は多くのことを学んでいきます。
それぞれにそれぞれの輝きがあって、それに触れながら、自分の煌めきに色を足していく。
その営みの連鎖こそが、誰かを、或いは誰かと誰かの関係をより強く紡いでいくと思うのです。
これからもそういうお話をたくさん書いていけたらいいなと思います。